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憎い相手が患者で
第一章

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                憎い相手が患者で
 中谷春香はこの時慌ただしかった、勤務している病院にだ。
「そう、それだけの患者さんがですね」
「はい、応急で」
 看護師の一人が白衣を着ている彼女に話した、見れば春香は長い黒髪を後ろで束ね細面で細い目と薄い唇を持っている。背は一六〇位ですらりとしている。
「二十人もです」
「そうですか、では」
「はい、中谷先生もです」
「診させてもらいます、そして」
「手術もですね」
「させてもらいます」
 こう応えてだった。
 春香は診察に入った、病院は担ぎ込まれる急患で一杯でだった。
 まさに戦場だった、看護師はその中で話した。
「幸い重傷の人はいますが」
「亡くなった人はですね」
「あくまで今のところですが」
 それでもというのだ。
「おられないので」
「そのことは幸いですね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「何とかです」
「誰も亡くならない様にですね」
「したいとです」
 その様にというのだ。
「院長先生も言っておられます」
「そうですね。人を助けることが私達の仕事です」
 春香も真剣な顔で答えた。
「何といいましても」
「その通りですね」
 看護師もそれはと応えた。
「では」
「はい、それでは」
「すぐにです」
「お願いします」
 こう話してだった。
 春香はある重傷者を見た、だが。
 その顔を見てだ、春香は後輩に言った。
「これは」
「どうしたんですか」
「この患者ですが」
 太った大柄な女を見て言うのだった、年齢は春香と同じ位だ。
「知ってる人です」
「そうですか」
「浅井佐紀さん、かつて同級生で」
 その女性を苦い目で見つつ話した。
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