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安石国の樹
第二章

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「明日この国を発たれますね」
「そうだが」
 張騫はこの女は誰だそして何故そのことを知っていると思いつつ応えた。
「それがどうかしたのか」
「ならです」
 女は畏まってさらに言った。
「私もご一緒させて下さい」
「待て、そなたは身分のある者と見た」
 女の身なりがこの国のかなり位の高い女の服であることから言った。
「そうだな」
「それは」
「親から了承は得たか」 
「親はいません」
「ではご夫君からは」
「夫もです」
「ではそなた一人か、尚いかん」
 張騫はここまで聞いて顔を顰めさせて返した。
「そなたは家を護れ、一人でいるならだ」
「それでは」
「この国に留まりだ」
 そのうえでというのだ。
「家にいるのだ、いいな」
「どうしてもですか」
「どうしてもだ」
 こう言ってだった。
 張騫は女の申し出を断った、女は悲しい顔で出て行った。
 そして翌朝国を発つ時この国の王に暇乞いをすると。
 王は彼に出発のはなむけの贈りものに多くの品を出した、だが彼はこう返した。
「出来れば石榴の木をです」
「あの木をですか」
「この国にいた時に何かと慰めてくれたので」
 それでというのだ。
「どうか」
「あの木自体を持ち帰るとなると」
「やはり難しいですね」
「かなりの大荷物になりますのでそちらの都に着くまで」
「枯れることもありますね」
「この辺りは砂漠で雨もないので」
「ではどうすべきか」
「種はどうでしょうか」
 ここで王はこう言ったのだった。
「木の種は」
「石榴のですか」
「あの木は花が咲実が実り」
「種もありますか」
「ですから」
 それでというのだ。
「如何でしょうか」
「それでは」
 張騫も頷いてだった。
 彼は王から石榴の実を貰いそれだけを土産として国を発った、そして。 
 己の務めを果たして長安に戻る時にだった。
「張騫様、匈奴です」
「匈奴が来ました」
「匈奴の軍勢です」
「いかん、逃げるのだ」 
 張騫は自分達の兵が少ないのを見て逃げることにした。そうして。
 馬を走らせた、必死に逃げて何とか匈奴から逃れたが。
「皆無事だな」
「はい、何とか」
「皆助かりました」
「幸いに」
「ですが荷物はです」
 供の者達は張騫の下に集まりつつ言ってきた。
「かなり失われました」
「逃げる中で」
「そうなってしまいました」
「残念なことに」
「そうか、私もだ」
 張騫も苦い顔で述べた。
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