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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十四話 旧友来訪の後始末
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皇紀五百六十八年 四月二十九日 午後第五刻半
馬堂家上屋敷 


「つまりは向こう次第だ、豊久」
 渡された駒州からの報告書から目を離し、馬堂家の当主たる豊長は辺境から政争の場へと戻った孫へと目をやった。
 ――当初の様子だと前線に送るのは不安だったが……御育預殿に借りができたな。
 若いうちに前線を離れた事に悔いはないが、こうした時の対処法を忘れてしまった事だけは惜しかった。
「ですが馬堂家が嘗められるのは不味いでしょう」
 豊久は国軍憲兵の基盤を作り出した祖父の劣等感に気づかずに反論をした
「それではなかろう?」
「分かりますか?」
 豊久の表情が作りのない苦笑に変わった
「分からいでか、お前の面倒を何年見ていると思っておる。
ほれ、さっさと吐かんか」
 豊長はぶっきらぼうに刈り込んだ顎髭を突き出す。
「敵いませんね。まるで堂賀さんに審問されたような気がします」

「儂はまだまだ現役だからな。あんな若造と一緒にするでない。――それで?」
 促されると決まり悪そうに咳払いをして、豊久は言う。
「子供染みているのは自覚していますが、土足で私の書斎に踏み込まれたのが非常に不愉快です」

「まぁ気持ちは分からんでもないが、お前の気分で家を傾けさせるわけにもいかんな。
――元々儂のところに話を持ってきた時点で血を流すつもりは無かったのだろう?」
 だが豊久は微笑を浮かべ首を横に振る。
「それは御祖父様次第です。正直なところ淡い希望程度は抱いてましたよ。
――ま、せいぜい楽しみながら片付けましょう」
嗜虐的な口調で語る孫を見て豊長は呆れたように溜息をついた
「――外の輩は山崎に任せているのだな?ならば其方は儂に任せよ。どの道、まともに調べるには時間がかかる。お前は明日からは忙しくなる、今日もあまり遊びすぎるなよ」
 豊長は内心では現在の孫の有り方を好ましいものではないと考えている。
――子供の頃から傾向はあったが危うすぎるのではないかと思うほどに立場――環境によって演じ方を変えている。無論、そんなことは誰でもやっている事だ、将校ならなおさらに。だが何事も程度の問題である、かの育預の様に――否、あらゆる人間と同様に屈折した部分があるという事だろう。
「はい、御祖父様。私も色々と鬱憤が溜まっておりましてね、精々いじめさせてもらいますよ」 愉しそうに嗤う孫に祖父は内心、溜息をついた。
 ――とんだところに内憂が増えたが――今は目の前の問題が優先か。


同日 午後第六刻 馬堂家上屋敷 玄関
兵部大臣官房総務課理事官 馬堂豊守准将

「それは向こう次第になります。流石に鎮台の彼是まで口を挟めません、動員に関しては兵部省と協調して訓令を出す程度が限度です」
 軍監本部戦務課参謀である大辺秀高少佐が呟
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