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冥王来訪
第一部 1977年
策謀 その4
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翌日早朝、事態は動いた
保安相に伴なわれて、シュミットはその場に向う
彼の狙いは、《直訴》して策謀を潰すことであった
《おやじ》と保安相の週一度の相談
その機会は彼にとって、チャンスにすら思えた
会議が始まるまでは……

《おやじ》と大臣の話に一区切りがついた時を見計らって彼は言った
「議長、宜しいでしょうか」
《おやじ》は、顔を上げて、彼の方を向く
小柄ではあるが、《絶妙》の政治手腕で、国際共産主義の粛清の荒波を泳いできた《怪人》
そのソ連への追従の姿は、ある種の芸術品の様である
彼の手にある報告書を、恭しく差し出す
《おやじ》は、報告書を一瞥する
顔色は、一瞬青ざめたかと思うと、赤く染まっていく
鼻息は荒く、掛けている厚いレンズの入った眼鏡が上下するさまが判る
即座に不機嫌になるのが彼には分った
立ち上がると、書斎の奥にある金庫の前に向かう
金庫を開けると、報告書を勢いよく投げ込む
そして厚い扉を手荒く締めた
鍵の掛かる音が聞こえる
彼は焦った
KGBの資料を基に作った秘密報告書が、読まずに仕舞われてしまったのだ
「お待ち下さい。どうぞ、再考を御願い致します」
明らかに興奮した顔で、彼の方を向く
目が血走っており、髪が僅かであるが逆立っている様に見える
「過労の傾向があるな」
握っていた手袋を落とす
「2か月間の休養を命ずる。構わんよな」
脇に居る大臣が頷く
彼は、なおも食い下がった
「何故ですか、議長。
この国家の騒乱を未然に防ぐべきでは、ありませんか」
不機嫌な顔をしたまま、彼に返答した
「先立つ《作戦》の手前、私の顔に泥を塗るような真似は止め給え」
この時、確信した
眼前の老人は、《パレオロゴス作戦》を目前にして軍事クーデター未遂などという、恥を被りたくないと言う事を語っている
《ソ連への盲従》、それは良い
だが、危うい状況にあっても決断すら出来ない人物が国を左右している時点で、ある種の不安を覚えた
半ば耄碌した男であることは、曖昧模糊とした態度から判別出来た
いざ、面前で対面してみると予想以上であった

黙っていた保安相が、重い口を開く
「そもそも君達が、軍を、まともに監視出来て居ない様では、なあ……
シュミット君、少しばかり《バカンス》へ出かけなさい」
この時期に中央から遠ざけるのは、危険ではないか
重大局面での2か月近い休暇は、先々の《キャリア》に傷がつく
彼は、焦った
「お待ちください……」
一笑に付すと、静かに返す
「君が作らせた報告書とやらは、《誇大妄想》が過ぎる。
その様な事を、暗に議長は仰りたいのだよ」
大臣の鋭い眼光が、なおも彼を捉える
「我々もソ連の面前で、恥ずかしい思いはしたくはない。
党の体面が辱められるような事が、ソ
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