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冥王来訪
第一部 1977年
策謀 その3
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その夜、降りしきる霙の中、宿舎に一台の軍用車が来た
後部座席より降り立った男は足早に室内に入る
脛まで有るマント型の雨衣を着て、頭巾を被っている
室内に入ると、待っていた下士官が、彼を奥にある軍団長室に案内する
部屋の前まで案内をした下士官に、敬礼
返礼をした彼を見送ったと、ドアを開ける
静かにドアを閉め、部屋に入る
男は、顔を覆っていた頭巾をゆっくり下ろしてから、雨衣を脱いだ
雨衣を脱いだ後、煌びやかな刺繍が施された軍服姿が露になる
赤いパイピングが入ったギャバジン地のクラウンに、赤地の鉢巻(帽子のサイド)に金メッキの帽章
その被っている帽子から、将官だと判別できる
脇に太い赤の二本の側章が入ったストレート型のズボンを履き、襟には金の刺繍が配われている赤地の階級章
ダークグリーンの襟の内側に白い襟布を付け、金糸と銀糸の織り込んである肩章
その階級章は、星の数から少将
霙と泥で汚れてはいるが、磨き上げた黒革の靴
脱いだ雨衣を手に持った白髪の男の顔には深い皴が刻み込まれている
その男は、フランツ・ハイム
地上軍司令部(参謀本部)勤務の将官で、来る《パレオロゴス作戦》についての見解を窺いに来たのであった
彼は、室内に居る人物に声を掛ける
「話とは何だ」
執務中であったシュトラハヴィッツ少将は、手を止めて正面を向く
ペンを置くと、立ち上がって敬礼をした
敬礼を返すと、軍帽を脱いで、軍帽を逆さまにして机の上に置く
後ろに下がって、雨衣を室内にある外套掛けに吊るす
室内にあった椅子に腰かけた後、彼に尋ねた
「忙しい所に済まんが、こうでもせねば話を聞いてくれまい」
事務机から、テーブルに移動すると、脇から灰皿を取り出し、タバコに火を点けた
何時ぞやの如く、外国たばこではなく、CASINOという国産たばこで、その箱を机に置く
「吸うか」
彼は、頷くと、手を伸ばして、箱から3本タバコを取る
14個の略綬が輝く左胸のポケットから、マッチの紙箱を出す
紙箱よりマッチを摘み取り、火を点ける
深く吸い込んだ後、ゆっくりと紫煙を吐き出す
「お前に関して少しばかり噂を聞いた」
「それで。話の出所は、どこだ」
彼は、内ポケットより折り畳んだ紙を取り出し、訪ねた
「これの存在は聞いているか」
少将は、数枚の紙をを広げると、目を見開く
「大方、保安省辺りの小役人が作ったものか」
彼は、腕を組んで背もたれに寄り掛かる
「然る筋から私のところに来た。
恐らく半分は警告の心算で送って寄越したのであろう」
「ほう。奴等も走狗ではないわけか」
彼は、話しながら右手でタバコの灰を落とす
「省内では、ソ連派と独立派がいて派閥闘争を始める算段が出来ている様だ」
少将は、ゆっくりタバコをもみ消す
「どこも一緒だな。

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