第一章 幽々子オブイエスタデイ
第7話 『魔王』光臨:前編
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ザッと相手の足音がなる。見た目は幼い少女のものであるから実際に聞こえる音は軽やかなのだが、依姫の耳には本来よりも重厚に聞こえたのだ。
それは相手に怖じ気付いているからではない。多少は畏怖の念を覚えているが、神の力を借りられる自分が万に一つでも負ける要素はないと依姫は自負しているのだ。
では何故気が引き締まるのか。それは相手に対しての『敬意』にも似たものが原因であった。
スペルカード戦開幕の際には自分が一番に出るのではなく、他の者と依姫の戦い方を見て確実に勝利を手にしようとするしたたかな一面。
続いて従者のメイドが負けた際には、彼女が勝ったら私の出番がないじゃないのよと悪ぶって見せてかばう様。
そして魔法使いが才能の壁にぶち当たって本調子ではない所で、負けるならやりたい事やってから負けなさいよと喝を入れた様。
失態をかばう、心残りなく力を発揮させる、そして自分が一番頑張る事。
それは依姫と同じなのであった。だからこれからの戦いを悔いなくやり切らなければと思うのだ。
現代の者はその逆が多いだろう。失態を犯した者に容赦なく当たり、力を発揮出来ない者をあざ笑い、自分よりも他人に努力させる者が幅を利かせているのだ。
だから、目の前の吸血鬼は貴重な存在なのだ。この戦い、すべからくこなさなければならないだろう。
「準備はいいかい?」
高ぶった思考の中から意識を引っ張り出すべく、レミリアが依姫に声を掛けた。
「ええ、いつでもどうぞ」
いつまでも物思いにふけっている訳にはいかない。依姫も刀を構えて臨戦態勢をとった。
「じゃあいかせてもらうよ!」
レミリアはそう言うと体を前のめりに向けると──足で地を蹴り瞬発力を生み出し、一気に前方に飛び出したのだ。
(! 速いっ!)
一瞬の出来事に、依姫は意表をつかれてしまった。先の魔法使いの方が速さ自体は上だったものの、彼女は直接依姫に向かってくる事はなく、遠距離攻撃に徹していたのだ。
だが、レミリアはその己の肉体を武器に突っ込んできたのだ。
そしてその勢いに拳を乗せて振りかぶった。見た目は少女の小さい拳だが、空気の流れの変動の異様がその威力がいかに凄まじいものになるかを物語っていた。
(だがっ!)
間一髪依姫は刀をその攻撃に合わせ、拳撃を刃で受け止めたのだった。キィィィンと甲高い音と痺れるような振動が巻き起こった。
「私の第一撃を受け止めるとは、やるじゃないか」
「お褒めにあずかり光栄ね」
お互いに軽口を叩き合う二人。そして互いに距離を取り合った。
ちなみにレミリアの拳は刀身にぶつかったにも関わらず傷一つなかった。さすがは吸血鬼の身体能力とでもいうべきだろうか。
「楽しもうじゃないか」
「ええ、お互いにね」
二人の闘志は沸々と煮えたぎって来てい
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