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ダタッツ剣風 〜業火の勇者と羅刹の鎧〜
第1話 呪われし鎧

[2]次話
 自らの血に濡れた手が目に映り、鉄の臭いが嗅覚を支配する。遠のいていく意識の中であっても、剣戟と怒号は絶えず聴覚に響き続けていた。

 愛する祖国を守るため、義勇兵に志願してから僅か半月。
 満足に訓練課程を終える暇すらなく、最前線に送り込まれた少年兵に待ち受けていたのは、奇跡など起こらない非情な現実だけであった。

 圧倒的な物量差で王国軍を圧倒する、冷酷非道の帝国軍。その急先鋒として剣を振るう「帝国勇者」と遭遇した瞬間、少年兵の運命は決していたのだろう。

 見掛けこそ同世代の男子だが、その膂力と剣の腕は伝説に違わぬ凄まじさであり。文字通り為す術もなく、力無き弱卒は斬り捨てられてしまったのだ。

「ちく、しょうッ……! 俺は、俺は、こんなところ、でッ……!」

 しかも、不運なことに。なまじ少年兵達の中では人一倍頑丈だったばかりに、彼は楽に死ぬことすら許されず。
 苦悶の表情でのたうちまわりながら、刻一刻と迫る死を待ち侘びるしかなかったのである。
 それは激戦の中で消耗し、脱ぎ捨てられてしまった帝国勇者の鎧が、目の前に転がって来るまで続いていた。

「……! ぁ、がッ……!」

 意識が混濁し、己の魂が闇の果てへと消えていく瞬間を身近に覚えながらも。せめて何か一つ、戦利品だけでも友軍に持ち帰らねばと、彼は血達磨の身を引き摺っていく。
 だが、彼の力ではその程度が限界であった。傷付いた鎧に身を預けるように倒れ込んだ瞬間、その魂は天へと還り、肉の器だけが現世に残される。

『……見上げた根性じゃねぇか。気に入ったぜ……餓鬼』

 その器に目を付けた者がいたことなど。世を去った少年兵には、知る由もない。
 やがて、戦地に取り残された骸の一つに過ぎなかったはずの肉塊は、かつて勇者が纏っていたとされる鎧と共に。禍々しい邪気の霧へと、飲み込まれていくのだった――。

 ◇

 ――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
 
 その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
 
 人智を超越する膂力。生命力。剣技。
 
 神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
 
 如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
 
 しかし、戦が終わる時。
 
 男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
 
 一騎当千。
 
 その伝説だけを、彼らの世界に残して。
 
 ――それから、三年もの月日が流れた頃。とある砂漠の町は今、未曾有の危機に瀕していた。

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