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天狗火
第一章

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               天狗火
 但馬の古い話である。
 ある山に提灯位の大きさの火が灯ると次第に降りてきてだ。
 森の中で飛び回ったり川辺に留まったりする、その火達を見て山の近くの村々の者達は気味悪がっていた。
「あの火は何だ」
「いつも幾つも出るが」
「不気味だな」
「全くだよ」
「何時か村まで来るんじゃないか」
「そう思うと怖いな」
「わし等を襲うんじゃないか」
 こうなるのではないかというのだ。
「そう思うと余計にな」
「怖くて仕方がない」
「どうしたものか」
「あの山に何がいるんだ」
「鬼か他の化けものか」
「一体何がいるんだ」
 こう話していた、山の近くの村は何処も不安に覆われていた、そしてこの話はすぐにこの地を治める藩の耳にも届いた。
 藩主もその話を聞き家老達に言った。
「このこと放っておけぬな」
「はい、火達の正体が何かわかりませんが」
「それでもですな」
「辺りの民達が不安に包まれています」
「民の不安を除くのも政です」
「ここは何とかしましょう」
「うむ、ではな」
 藩主は家老達の言葉を聞いて述べた。
「どうするか」
「一つ考えがあります」
 国家老の中で筆頭とされている池田有信がここで言った、初老で髷に白いものが混じっている厳めしい顔の男だ。
「それがしに」
「どういった考えか」
「あの火達はどう見てもまともなものではありませぬ」
「化けものか怪異か」
「どちらにしても」
「うむ、余もそう思う」
 藩主も言う、見れば三十程の細面の色白の男だ。
「何かまではわからぬが」
「化けものか怪異か」
「そうしたものであるとはな」
「そうしたものに対しては昔からです」
 池田は藩主にさらに言った。
「強者を送るものです」
「源頼光然り俵藤太然りじゃな」
「はい、ですから」
「この度もか」
「強い武芸者を送りましょう」
「そうしてか」
「ことの真偽を確かめさせ」
 池田はさらに話した。
「若し悪しきものならば」
「成敗させるか」
「そうしましょう」
「わかった、では誰を送る」
「藤田がよいかと」
「藤田か」
「はい、当家の武芸師範の」
 この者をというのだ。
「あの者をです」
「確かにな、藤田はな」 
 藩主もこの者について述べた。
「我が藩で一番強い」
「剣術も見事ですが」
「柔術もな」
「そちらも恐ろしいまでの強さなので」 
 だからだというのだ。
「あの者をです」
「山に送るか」
「そうしましょう、その子もまだ若いですがかなり強いので」
「だからじゃな」
「二人を送り」 
 そしてというのだ。
「ことを収めさせましょう」
「わかった、ではな」  
 藩主は池田の言葉に頷いた、そしてだった。
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