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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
揺籃編
第十三話 エル・ファシルの奇跡(中)
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宇宙暦788年6月10日19:00 アスターテ星系、エル・ファシル警備艦隊第2分艦隊、
旗艦アウストラ ヤマト・ウィンチェスター

 「ウィンチェスター曹長ほか一名入ります。艦長に呼ばれて参りました」
「まあ、楽にしたまえ。補給艦がエル・ファシルに帰還中なのは知っているな」
「はい」
「君達の懸念が組織を動かした訳だ。中々無い事でもあるし、そのような乗組員を部下に持つ身としては、非常に鼻が高い」
「ありがとうございます」
「が、内容が内容だ。私もダウニー司令も本隊が負けるとは思わない。まあ思っていたとしても口が避けても言いたくないがね。…万が一負けたとすれば、避難計画は計画では無くなる。味方が負けるという事は、帝国軍のエル・ファシルへの来襲が予想される訳で、計画の実行、成功には非常な困難を覚悟せねばならない。そして避難対象者は民間人な訳だが、概算で二百万人の民間人がエル・ファシルには存在する」
「…予想はしていましたが、実際に考えるとすごい数ですね」
「そうだな。一個艦隊強の人間を運ばねばならん。一人の損害も無く、だ」

 ヤンの達成したことがどれだけすごい事かよく分かる。
事故も遅延も許されないのだ。寒気がする。
軍隊だけならまだ楽なのだ。軍事行動の場合は許容出来る損害を含めて計画を立てる。これは銀英伝に限った事ではなくて、現実でもそうなのだ。まあ許容出来る損害の中には絶対入りたくないが…。
大体一割、多くても二割くらいが戦闘時の損耗や行動中の事故で失われると想定して計画を立てる。
となると、二百万人の一割は二十万人、二割なら四十万人の被害が出る事を許容する事になる。冗談じゃない、民間人にこれだけ被害が出たら、同盟軍の信頼どころか自由惑星同盟が崩壊しかねない。
民間人の被害を当たり前と考える軍隊など誰も信用しないし、それを許す政府も同様だ。ヤンさん、偉いよあんた。同盟自体を救う事になるんだから…。

 「確かに、そうです。民間人に被害が及ぶ事は許されません」
「その通りだ。地上作戦室では既に民間人の実数の集計や乗船割の策定を進めている。が、計画と実際に齟齬は付き物だ。そこで、ここから本題だ」
「はい」
「避難計画を発動する場合、その円滑な実施には計画実行者と計画発案者の強固な連帯と迅速かつ明瞭な意志疎通が必要である、と分艦隊司令部は考えている。そこで、計画発案者たるウィンチェスター曹長と、それを補佐するスタッフをエル・ファシルに早急に移送してもらいたい、分艦隊司令部からと要請があった」
「避難計画は第2分艦隊司令部主導で行うのではないのですか」
「計画主導はあくまで警備艦隊司令部だ。幸運なことに、緊急出撃に間に合わなかった作戦参謀が地上作戦室にいるのだ」
「了解しました。…差し出がましいようですが、リンチ司
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