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羊の頭
第一章

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                 羊の頭
 アラビアに伝わる古い話である、ある聖者が弟子達と共に色々と話をしていた。聖者はここで弟子達に話した。
「ラマダンの時だが」
「はい、その時ですね」
「断食の時は」
「どうすべきか」
「どうしても食べたい飲みたいと思う」
 あえて断食をしていてというのだ。
「そう思っていますな」
「それをあえてですね」
「日没まで耐える」
「そうしなければならないですね」
「アッラーは何も飢え死にするとは言われていない」
 それは決してないというのだ。
「アッラーが人にそうしたことを言われるか」
「決してないですね」
「そのことは」
「アッラーが寛大にして慈悲深いです」
「その慈悲は全ての者に等しいです」
「そうだ、そのアッラーが人に教えて下さるのだ」
 飢え死にさせるのではなく、というのだ。
「あえて日が出ている間だけ食べず飲まず」
「その様にしてですね」
「人は飢えを知る」
「そのことを知る為にですね」
「アッラーはラマダンを定められていますね」
「そうなのだ、そして全てのムスリムがそれを行う」
 ラマダンをというのだ。
「我々が全てな」
「スルタンも物乞いも」
「マムルークも商人も」
「農民も船乗りも」
「ムスリムなら行う、どの様な者もムスリムならば」
 それならというのだ。
「アッラーの前には同じだ」
「人ですね」
「誰もが」
「それを知る為のものでもありますね」
「ラマダンは」
「だから行うべきだ、そして日が落ちた時は飲んで食べ」
 そうしてというのだ。
「終わった時は宴だ」
「苦しみは永遠ではない」
「それに耐えねばなりませんね」
「日が出ている間位我慢すべきですね」
「ラマダンの月の間は」
「宴まで考えられているのがアッラーなのだ」
 神の深謀だというのだ、とかく聖者は弟子達にラマダンの意義を話していた。そうしてだった。
 そろそろ飯の時になると弟子の一人がふと好物の羊の丸焼きを食べたいと思った。すると即座にだった。
 聖者は弟子達にその弟子を見つつ話した。
「この者が羊の頭の丸焼きを食いたいと思っている、ならそれを食おう」
「?先生どうしておわかりになられました」
「その者が羊の丸焼きを食べたいと」
「どうしておわかりになられましたか」
「また急に」
「何故ですか」
「それはな」
 どうしてわかったかとだ、聖者は弟子達に落ち着いた声と態度で話した。
「わしはこの三十年欲が起こったことがない」
「そうなのですか」
「欲を抱いたことがない」
「先生は左様でしたか」
「だがここで突然な」 
 まさに一瞬でというのだ。
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