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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十五話 六芒郭攻略戦(一)
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皇紀五百六十八年 十月二日 午後第二刻 六芒郭 本部庁舎
 新城支隊 参謀長 藤森弥之助大尉


 どたどたと足を踏み鳴らしながら要塞参謀長という厄介極まりない立場に追い込まれた藤森弥之助は六芒郭要塞本部庁舎の扉を乱暴に開けると、いつも以上に不機嫌そうにがなり立てた。
「今日はひどいな、おい、見たか砲兵部長。連中いよいよ突撃壕を伸ばし始めたぞ」
 畜生、連中が皇龍道にでもつっかけてくれればそれに越したことはないのだが、と相手を理由なく睨みつける。
 声をかけられた相手は特に不愉快そうにはしない。大机の上に乗った図面から視線を外す事すらしない。そこに六芒郭の突角堡の状況が仔細に書き込まれている覚書が張り付けられている。

「雨季が近く、東方辺境鎮定軍本営がここに来た。大攻勢を行うのは予想はされていたことです」
 返事は事務的な口調であるがこれもまた、いつもの事らしく藤森は肩をすくめて水筒を傾けて水をラッパ飲みした。 

 彼は長門大尉である、西州軍が第三軍に派遣した部隊から送り込まれた独立擲射砲中隊長だ。
 要塞砲兵部長などと云う立場を押し付けられている。要するに南突角堡以外の指揮管理を新城から委ねられている立場にある。

 龍火学校を優等で卒業したやり手であり、衆民将校であるが未だ三十を迎えていないのに、大尉としての軍歴が長い。
 ここに寄こされたのも西津中将直々の人選だったと聞いているから恐らく目をかけていた領民なのだろう、と藤森は推測していた。。
 独立中隊としては過剰な中隊本部の所帯も六芒郭で彼にそれなりの立場を与える為なのだろう、とも受け止めていた。
 つまりは独立した本部を与えてよこしたのであり、信頼はしているが”同化”はさせない、という事だ。まぁそれはいい、どの道やる事は山積みなのだから使える奴は使われて当然だ、と思いながら藤森は唸った。
「各突角堡の備蓄基準を引き上げる、そちらで把握できているな?」

 長門大尉は頷いて自分よりも快適な風通しの良い椅子に座っている導術に視線を向けた。
「東南・西南突角堡に伝達、“砲撃は擾乱砲撃計画から変更ない、適当に脅かすだけでよい。
弾薬消耗は早期に申告せよ、後伸ばしにするな。”と強調して送れ」
 藤森はふん、と満足気に鼻を鳴らした。
 長門大尉らの事は臆面もなく扱き使うつもりであったが、西原家の係累を使った交渉を好意的に受け止めたわけではない。
 それを主導した馬堂大佐についても全く信用していない。
 軍監本部にいた時に漏れ聞いた北領の戦ぶりを見聞きする限り”優秀な軍人貴族”の貴族の部分を強く発音する部類の人間だ。身内であれば頼れるのであろうが自分は身内ではない。
 将家とはそうした生き物なのだと藤森は断定している。


「状況はどうだ」
 六
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