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曇天に哭く修羅
序章
孤独
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色褪(いろあ)せる。

全てが灰色だ。

縁側に座る少女《黒鋼焔/くろがねほむら》は五才の秋を迎えていた。

茜色の空を見ている。


黄昏(たそがれ)るにはちょ〜っと年令(とし)が早いんじゃないと思うんだけどな焔?」


声が響くと鈴の音が鳴る。

その主は焔の隣に座った。

闇色の着物に身を包む絶世の美女。彼女は黒い髪に付けられた鈴飾りを(いじ)り微笑む。

焔の母《黒鋼燐/くろがねりん》だ。


「最近元気が無いね?」

「……面白くないの。戦いが」


焔の言葉に燐は悟る。


「ふーむ……まあ仕方ないわねぇ。焔は恐らく私達の一族における歴史の中でも相当な部類の天才だし、力の片鱗を見せることすら出来ずに『勝って当たり前』じゃあやる気を失くしても無理はないか」


母の言に焔が頷く。


彼女達【黒鋼】一族は生まれ付いての『修羅』であるが故に修練は物心つく前より始まる。

しかしそれは強制でない。

自ら進んで行うのだ。

一族は幼少の(みぎり)より絶え間なく闘争を求める狂気を抱えているのだが、その血脈がもたらす例に()れず、焔もまたそうした異常性を持つ。

恐ろしいことに五才の時点で極めてこそいないものの、一族に伝わる黒鋼流体術を一通り修め、武術の道場破りを趣味にしている。

しかし今は、その生き甲斐である闘争そのものが面白くも楽しくもない日々を送っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「みんなあたしに勝てない。【魔晄(まこう)】が宿ったとしてもきっと同じ。勝ち負けどころか傷一つ付けられないと思う」


誰も彼も少し触れただけで壊れ、その気になれば気合いだけで相手が敗けを認める。

他の人間には生涯を賭けて鍛えたとしても、到底手の届かない強者であることと引き換えに焔は闘技者としての孤独に陥ってしまった。

何もかもつまらない。

暗い顔の焔を母の燐が優しく撫でる。


「自惚れ、じゃあないんだろうけど、それは少々考え過ぎさ。この世には強い奴がわんさか居る。焔を満足させてくれるような相手もね」


実際、燐と夫で焔の父、《黒鋼錬/くろがねれん》は(いず)れ焔に追い越されるだろうが今は焔を歯牙に掛けないほど圧倒するし、祖父に関しては燐と錬よりも強いのではないだろうか。


「何時か素敵な好敵手に出逢えるさ。あたしが貴女のお父さんに巡り会えたようにね」


優しい燐の笑みが焔の心を(いや)す。

焔にとって両親は心の支えだった。

二人が居たから闘技者の孤独だけ。

人としての孤独は何処にも無かった。


(そろそろ黒鋼(ウチ)に弟子入りする人間が来る頃だと思
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