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遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
エピローグ
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なくなる。ようやく体の傷が治りかかっている彼に、このタイミングで心の傷という現実を突きつけることが正しいことだと言えるだろうか。
 らしくもなくまごついている彼女を一瞥し、優しい声音で鳥居が少女に向き直った。

「ちょっと悪いけど、八卦ちゃん。お使い頼まれてきてくれるかな」
「お使い、ですか?はい、お任せください!何を買ってきましょうか!」
「えっと……んじゃ、『スイートミルクアップルベリーパイとろけるハニー添え』ってのをお願い。この近くのケーキ屋にあるかわからないから、30分探しても見つからなかったらそんでいいから」
「30分ですね、わかりました。では、失礼しますっ!」

 元気よく少女が部屋を後にしてからたっぷり1分ほど待ち、戻ってきていないことを確認した鳥居がようやく口を開く。その声色はさっきまでとは打って変わり、悲壮感と無力感に満ちていた。

「……すんません、糸巻さん。俺ちょっと、もう駄目かもしんないっすわ」
「だろうな。よっっぽど手ひどくやられたんだろ?悪いとは思ったがデュエルディスクの内部データから、どんなデュエルをやったのかは確認させてもらったからな」

 先ほどまでは純粋無垢な少女の手前、かなり無理してお得意の演技をしていたのだろう。彼は今、自分の心がどれほど悪い状態にあるのかを客観的に捉えて知っている。それを確認した糸巻も、もはや遠慮は不要とばかりに近場の椅子にどっかりと腰を下ろして長い足を組み、懐から煙草を1本取り出す。

「……ここ禁煙っすよ」
「怒られるのはアタシじゃない」
「よくわかってるじゃないっすか、俺が怒られるんすよ」
「知るか、馬鹿」

 そうは言いつつも言葉とは裏腹に舌打ちし、火をつける寸前の煙草を元通りしまい込む。いつになく素直な女上司のそんな姿に、鳥居がまた力なく笑う。

「なんか今日は随分優しいっすね、糸巻さん」
「馬鹿いえ、アタシはいつだって絵にかいたような善人だぜ」
「なら俺知ってますよ、その絵のタイトル地獄絵図ってんですよね」

 いらん一言と流れるような軽口こそいつもの調子だが、そこにはまるで覇気がない。彼自身もそのことを痛感しているのか、何とも言いようのない薄ら笑いを引っ込めて急に話題を変えた。

「ねえ、糸巻さん。糸巻さんは、何のためにデュエルしてるんすか」
「は?」

 おもむろに放たれた、哲学的とも思える問い。彼も目の前の反応から自分の説明不足を悟り、思い出したくもない記憶を自らの脳裏からサルベージする。

「あの時俺、言われたんすよ。俺のデュエルは、ただ与えられた役割にしがみつくだけのまがい物だって。俺はずっと俺のデュエルを観てくれるお客さんのためにデュエルをしてて、それが俺にとっての全部で。自分のために戦うなんて考えたこともなくて
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