暁 〜小説投稿サイト〜
ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode6『仲直り・後編』
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 深い深い、暗闇の底。
 ここには少しの光も差さず、冷たい液体が足首ほどの高さまで張られている。

 ……光がない、つまりは無だ。何も見えず、何も認められない。この暗闇は底無しで、何かを――何物をも照らす事など永遠にない。未来永劫に行き止まり。けれど分かる、本能で理解していた。
 ここは切り離された世界、捨てられた世界、二度と開かれることのないパンドラの箱。いらないものが一方通行で投棄されるだけのゴミ箱だ。

 ――そして僕もまた、同様(いらないもの)だった。

 ぽつ、ぽつ、と水滴が水面に落ちる音がする。それはきっと遠い昔に僕の体に纏わりついた、煩わしい不要物(いらないもの)だ。何度拭っても落ちない、何度洗っても染み付いてくる汚れ。即ち切り捨てるべきゴミ。
 それを抱え続けるこんな世界もあまりに醜いものだったが、この世界そのものを切り捨てる事だけは出来ない。そんな自由は僕には許されていなかった。
 もっとも、切り捨てられたとしてもそうはしないだろう。

 何故ならば、この世界を保ち続ける事こそが僕の存在意義なのだから。

『――ここ、は?』

 突然、そんな声が降ってくる。
 誰かが居た、そこに居た。何者かが、この世界にとって異質なもの(意義あるもの)が、そこに居た。

『……誰かいるの?』

 分かった。
 アレは、僕を終わらせる存在だ。この世界を終わらせる存在だ。

 “彼”を、殺す存在だ。

「殺してやる」

『……え?』

 殺意だ。
 殺意が芽生えた。

 殺してやる、殺される前に殺してやる。“彼”が終わってしまう前に、殺してやる。この世界全ての地獄を以て、アレを無限に殺し尽くす。奪われてなるものか、殺されてなるものか。焼き殺す、縊り殺す、絞め殺す、喰い殺す、刺し殺す、この身に行えるあらゆる手を用いて殺し続ける。

 それが僕だ。それこそが僕だ。だから、殺すのだ。



「ごめん」

『ひ、が、ぁ……っ!?』

 ――鋼の刃を以て腹を貫く。血潮が噴き出し、掻き出された臓腑がボトボトと水面に落ちる。


「ごめん」

『ぃ、あ”、ぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっ!!!!??』

 ――燃え上がる炎が、瞬く間にソレの全身を黒焦げにする。血は干上がって、眼球は水分を失って萎んでいった。


「ごめん」

『……あ”、がぇ……ぃ……』

 ――虚空から降り注ぐ無数の瓦礫が、ソレの体を圧し潰す。腕を弾き飛ばし、頭蓋を割って、その存在をばらばらにする。

「ごめん」

『……ぁ』

 ――微塵に、踏み殺す。

「ごめん」

 ――ただ、殺す。

「ごめん」

 殺す。

「ごめん」

 ころす。

「ごめん」
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ