暁 〜小説投稿サイト〜
海で見たもの
第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話
               海で見たもの
 その逸話を聞いてだ、最初リヒャルト=ワーグナーは興味深そうな顔を見せはしただけであった。
「面白い話だとは思うが」
「それでもだね」
「喜望峰以外で出ないということは」
 そのことがというのだ。
「信じられない、海は何処でもつながっているんだ」
「それでかい」
「私が思うのはこのことについてだよ」
「喜望峰にしか出ないということは」
「ないだろう」
 その話をしてくれた友人に言うのだった。
「その幽霊船はね」
「さまよえるオランダ人はだね」
「どの海にいてもだよ」
「出会う可能性がある」
「そして若しかすると」
 友人にこうも言うのだった。
「出会って」
「そしてだね」
「何かがあるかも知れない」
「君はこの逸話を信じはするんだね」
「シェークスピアでは亡霊は常に出て来るではないか」
 それならばというのだ。
「無碍には否定出来ないだろう」
「成程、シェークスピアでは確かに亡霊が出て来ることは常だ」
「シェークスピア以外にも話が多い」
「だから否定しないんだね」
「私自身観たいと思っている、そして若し観たら」
 その目でというのだ。
「面白いとは思う」
「この話はハイネ氏も書いているがね」
「それではそちらも読ませてもらおう」
 ワーグナーは友人に応えその本も読んだ、そのうえで友人に話した。
「面白い話だった、余計にだ」
「この話に興味を持ったかい」
「そうなった、余計に見たくなった」
 さまよえるオランダ人をというのだ。
「それが他の幽霊船であろうとも」
「見たいかい」
「海に出たなら、しかしオランダ人は何時救われるのか」
 ワーグナーはここでこうも考えた。
「このことが気になった」
「それはやはり」
「永遠にか」
「救われないだろう」
「呪いによって」
「そう、最後の審判の日まで」
 キリスト教の教えにあるこの日までというのだ。
「彼は救われないのだろう」
「恐ろしい呪いだ、そしてだ」
「そして?」
「悲劇だ、これだけの悲劇は」
 まさにと言うのだった。
「救われるべきだが」
「そうあるべきというのだね」
「シェークスピアの作品は悲劇も多いが」
 それでもというのだ。
「その悲劇はだ」
「救いがあるというのだね」
「死ぬ者の心は救われている」
「だからオランダ人も」
「救われるべきではないか」
 まさにと言うのだった。
「そうも思うがね、私は」
「オランダ人は救われるべき」
「本当にね」
 ワーグナーは友人からさまよえるオランダ人の話を聞いてこう言った、彼はリガでそうした話をしていたが。
 彼はリガの歌劇場で楽長を務めていた、しかしそこで彼の悪癖である借金癖が如何なく発揮され
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ