第一章
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憤怒身
根室寿はこの時毎年恒例のモードに入っていた、そのモードは彼の妹である千佳がこう言うものだった。
「毎年よく同じこと言えるわね」
「何言ってるんだ、阪神は今年はな」
「優勝だっていうのね」
「戦力が完全に揃って首脳陣も万全なんだぞ」
寿は朝御飯の時に自分の向かい側の席に座る妹に告げた。
「それならな」
「阪神の優勝は確実っていうのね」
「そうだ」
はっきりと言い切った。
「何があってもな」
「そうなのね、まあ去年みたいにね」
「広島にやられるなっていうんだな」
「うちのチームにもだけれど」
千佳は好物のお味噌汁、白菜のそれをすすりつつ兄に言った。兄も兄で自身の好物の梅干しを食べている。
「横浜にもよ」
「去年クライマックスで痛い目見たな」
「うちもだったしね」
千佳はここでその目を鋭くさせた、広島も横浜にクライマックスで敗れシリーズ出場を許したことを思い出してだ。
「今年あそこ強いかもね」
「そうだろうな、しかしな」
「それでもっていうのね」
「優勝はうちだ」
寿の言葉は変わらなかった。
「残念だが今年はカープの優勝はないからな」
「はいはい、そう言って毎年じゃない」
「去年までは去年まで、今年は今年だ」
「そこまで言うなら優勝した時はおめでとうって言ってあげるわ」
「こっちもそうしてやる」
実はお互いのチームが優勝した時はその言葉を掛け合っている、また阪神対広島でも勝っても恨みっこなしである。
「その時は来ないがな」
「全く、毎年この時期はこうなんだから」
「僕には未来が見えるんだよ」
「その未来は十月の未来じゃないでしょ」
優勝が決まるその時ではないというのだ、千佳の言葉はクールだったがそこに蔑みや憐れみはなかった。
それで学校でもだ、友人達に言うのだった。
「毎年こうだからね」
「お兄さん相変わらずね」
「春になったら阪神優勝って言うわね」
「今年は絶対だって」
「言わない年ないわね」
「私が物心ついた時からね」
寿はその時はまだ子供だった、だがそれでもだったのだ。
「ああだからね」
「そうよね、けれどね」
「お兄さんカープには寛容よね」
「どれだけケチョンケチョンにやっつけられても激怒しないわよね」
「普通に怒る位で」
「私が勝ったわよって言ってもね」
それでもというのだ。
「明日は倍返しだって言う位で」
「それ位なのね」
「別に怒らないのね」
「それ以上は」
「そうなの、けれどこれがね」
カープでなくてとだ、千佳は友人達に話した。
「巨人だとね」
「ああ、巨人だとね」
「こんなのじゃないわよね」
「それこそどれだけ怒るか」
「わかったものじゃないわね」
「お兄ちゃん
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