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嗤うせぇるすガキども
戦車は愛と正義を否定する 前編
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のは、よほどの達人だった事の証明だそうだ。
 玖波は激痛にさいなまれているのに、あごを握る天然記念物の左手が叫ぶことも許さない。
 そのまま銃剣の切っ先は、玖波の左心房に達した。
 天然記念物が手首をひねる。血が吹き出る代わりに、左心房に空気が送り込まれる。

「でも、君は知らないんだろうね」

 天然記念物がにっこりわらって、銃剣が刺さったままの玖波を突き飛ばす。
 冠状動脈に気泡が入りこみ、血流を止める。
 玖波の心筋が、徐々に死に始める。
 死にも勝る苦痛が、玖波を襲う。
 叫びながら転げ回る玖波。

「だいたい僕に負けている時点で、君ってもう世界一じゃないんだ。
 心筋梗塞でも失血死でも、放っておいて死ぬまでけっこう時間はかかるよ」

 天然記念物は工具箱から「けがき針」を取り出す。
 直径5mm、長さ20cmぐらいの工具鋼でできた「針」を。

「でも僕は、むやみに苦しめるのは好きじゃない……」

 天然記念物は暴れ回る玖波に馬乗りになる。
 こいつ、やっぱり男じゃないかと玖波は思うが、のどからは絶叫しかでてこない。
 天然記念物は、今度は左手で玖波の額を押さえつける。

「……こんにちは、そして、さようなら」

 天然記念物は大きく開いた玖波の口めがけて、けがき針を振り下ろす。
 無駄のない動きでけがき針は上顎骨と頸椎を一気に貫き、延髄を破壊する。
 電源を切った画面のように、一瞬で玖波の視界は暗黒に閉ざされた。






『二つ目の試練も、失敗でございましたな』

 玖波が目を覚ますと、そこは彼の部屋だった。
 つまり、いままでの光景は悪魔たちが見せた幻影。

「失敗ってどういうことだ!
 あいつは現に男だったぞ」
『いいえ、「彼」は身体と脳の性別がちがう人物なのです。
 ですので、男でもあり女でもあるのです。
 本当にシーメイルなのは、6枚目、一番右でした』

 少年悪魔が再びカードに手をかざすと、カードは光の粒子となって四散した。

「まだ試練とやらは二つ残っているだろう。
 次の用意をしろ!」

 少年悪魔はガラス玉の目を向けて、うけたまわったと答えるのみだった。
 
 
 
 
 

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