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渦巻く滄海 紅き空 【下】
六 不可視の領域
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重に巻かれた巨大な茶釜さえ無ければ。




自分がいる世界の変わりように、我愛羅は戸惑う。

果たしてコレは現実なのか、夢なのか。
けれども己の手を握り締める、正体不明の誰かの手のぬくもりだけは何故か現実味があった。


「そう吼えるな、守鶴」

守鶴の威圧感にも、怒声にも、地鳴りが続く足場にも、微動だにしていない金色の彼が釜へ向かって、悠然と微笑む。
しかしながら穏やかな笑顔に反して、その声音は鋭く強い響きを伴っていた。


「相互理解してゆく仲だというのに」
「ハッ!!人様の領域に無断で足を踏み入れる無礼者と仲良くするわけねぇだろ!!」


鼻で嗤う守鶴を前に、我愛羅は目の前の会話についていけず、沈黙を貫いていた。
けれども、我愛羅が傍観者でいることを、金色の彼は良しとしないらしい。
次いで投げられた一言に、我愛羅も、そして守鶴も呆然と言葉を失った。


「理解し合うのは、俺じゃない」


金色の彼は、そこでようやく顔を上げた。やはり誰なのかわからない。
妙な白い霧のようなものが思考と記憶に覆い被さり、相手の正体だけが何故か知る事が叶わない。

何処かで会ったはずなのに、初対面のような。初めて知っただろうに、どこか懐かしいような。
不可解な謎ばかりが、我愛羅を戸惑わせたが、直後の彼の発言には更に困惑させられた。


「人様の領域だと言ったな。ならば此処は我愛羅、お前の中だ。守鶴…お前を封じる、我愛羅の内」

封印術により尾獣を封じる領域であり、人柱力である宿主と尾獣のそれぞれの意志の境目。



歌うように淡々とそう述べて、彼は我愛羅に顔を向けた。
金色の陰から垣間見える青い瞳が静かに光る。


「だから宿主である我愛羅、お前の許可が必要だな。勝手にすまない」

急な謝罪に、我愛羅は何とも言えなかったが、ずっと自分の手を繋いでくれているそのぬくもりが、まるで己の意識を繋ぎ止めてくれているようで、無意識に頭を振る。
長年自分を悩ませてきた一尾との間にいる彼の存在がとてもありがたかった。

けれども、結局のところ、何故自分はこんな場所にいるのだろうか。



心の内の疑問を悟られたように、金色の彼が我愛羅を真っ直ぐに見据える。そのまま、パチン、と指を鳴らした。


刹那、足場の砂が急激に増え、我愛羅はバランスを崩して倒れ伏す。
ジュウウウウ…と何か嫌な匂いと音がして、顔をあげると、釜を厳重に巻いていた鎖がボロボロと溶けている。その鎖には、いつの間にか紫色の艶やかな蝶が纏わりついていた。

その蝶の鱗粉によってなのか、まるで毒液を浴びたかのように、鎖がどんどん溶けてゆく。頑丈な鎖の囲いが緩むにつれ、茶釜が大きく揺れ動き、膨れ始めた。


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