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赤き巨星のタイタノア
第2話 調査の代償
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 ◇

 発足から30年を経た地球守備軍は、宇宙怪獣との激戦により戦力の過半数を失った。その穴を埋めるべく、現在では新兵の育成に力が注がれている。

「どうした、お前ら。そんなもんで、本当に前線に行けるとでも思うのか?」

 ――だが。三大エースの1人、武灯竜也の訓練は日に日に苛烈さを増し。あまりの厳しさに膝を折る若手パイロットが後を絶たない状況となっていた。
 軍の教科書に名を残すほどの英雄。その人物が自ら教鞭を執ると聞き、当初は大勢の若獅子が詰め掛けたのだが……今となっては、彼の指導について行っている新兵は、当初の2割しかいない。

 訓練を終えた竜也の前には、死人のような表情の新兵達が、死屍累々と倒れ伏している。そんな彼らを見渡す竜也の眼は、怪獣の牙さえ穿つ鋭さを持っていた。
 黄色いパイロットスーツを内側から押し上げる、筋骨逞しい肉体。荒々しく逆立った黒髪。肉食獣の如き、獰猛な顔付き。
 そんな外見に違わず――否、それ以上(・・・・)に苛烈なシゴキを目の当たりにして、隣に控える副官は完全に萎縮していた。

「む、武灯教官……さすがに新兵相手にこれは……」
「あぁ?」
「い、いえ、その……」
「……こんなの、序の口ですらねぇんだぞ。本当の戦場ってのはな……!」

 副官や、他の教官達が思うように。竜也の指導は新兵に対するものとしては余りに厳しく、鍛える前に壊してしまうような内容であった。

 ――だが、竜也自身もそれを自覚していながら。自らの不甲斐なさゆえに、かけがえのない「戦友」を失ったことへの自責をぬぐい切れずにいた。
 そしてそれゆえに、訓練の手を緩められずにいるのだ。もう2度と、誰も死なせないように。

「……?」
「……ちっ、もういい。さっさとあいつら叩き起こして、明日に備えさせろ。明日のシゴきは、こんな優しいもんじゃねぇからな!」
「は、はひぃっ!」

 自らの非力さへの怒り。自分が認めた、唯一無二の親友への想い。それら全てを胸の内に抱え込みながら、竜也は副官を怒鳴り散らしていた。
 救世の英雄に怒号を浴びせられた副官は、顔面蒼白になりながら新兵達に駆け寄っていく。

「くそったれっ……」

 ――自分はそんな彼のように、傷付いた仲間を助けることが出来なかった。副官の背を見送る竜也は、そんな自分の非力さを呪うように舌打ちすると――満天の星空を仰いだ。

(……威流。あの世から、恨んでくれてかまわねぇぜ。お前の弔い合戦すら、上は許しちゃくれねぇんだから
な)

 まるで、天へ召された親友の無念を悼むように。

 ……だが、彼はまだ知らなかった。

 日向威流が辿っていた、数奇な運命を。

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