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霊群の杜
猫鬼
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僕のあとをついてくる、小さな猫がいた。


大人たちの寄合が終わるまで、奉の洞でお菓子でも食べながら待っていて、と、奉のおばさんに菓子を一包み渡された。
ほんとは、あんまり行きたくない。大人は奉を怖がるようなそぶりをする割に、僕に奉を押し付けようとするんだ。
奉はいっつも、本ばっかり読んでてあまり僕を見ない。遊ぼうと誘っても『そういうのはもう飽きた』ばっかりだ。飽きたとかいうけどそもそも、僕は奉が遊んでいるのを見たことがない。


奉も多分、一人で居たいんじゃないかと思う。どうせ本ばかり読むんだし。


そう思って僕は、今日は奉んとこに行かない!って今決めたんだ。
『今日は奉んとこだから…』と断ったけど、ほんとは今日、俊とか悟とかがポケモンでバトろうぜ!って声をかけてきてくれたんだ。DSはカバンに入ってるし、今から行ったら1時間くらいは遊べるかな。
そう思い立ったらワクワクしてきた。僕が急に行ったらビックリするだろうなぁ。
踵を返した瞬間、ふわふわの暖かいものが僕の足首にあたった。


それはとても綺麗な目をした、茶色いしましまの子猫だった。


試しにぐい、と足を軽く踏みだしてみたら、柔らかい毛並みに足首が埋まった。小さく頼りない声で啼くので、口の中でゴメン、と呟いて足を引っ込めた。…首輪、はしていないみたい。だけど毎日櫛でも通してるのかな、と思うほど綺麗な毛並み。
すごく放任主義の飼い主にでも飼われているのかな。
毛並みは…僕は猫の中では三毛が好きなんだけど、この子は茶色と黒の混じったしましまだ。
猫の上に屈みこむと、菓子の入った包みをふんふん嗅ぎ始めた。お腹がすいているのか。
猫って菓子なんか食べるんだろうか…奉んとこで呉れたんだから、多分高くてよく分からない和菓子とかだろう。僕はポテチとかのが好きなのに。包みを軽く開いて猫の前に置く。
「好きなの食べていいよ。あの…えっと、変なシマシマのー…」


「雉寅というんだ」


びっくりして振り向くと、奉が植え込みの向こうの暗がりに立っていた。
「雉の羽のような縞だから、雉寅。…見事な縞だろう?」
「いつからいたの!?」
「さあねぇ。よく見かけるようになったのは最近だが、その前から見ないこともなかったし……」
「奉がだよ!」
「お前が帰ろうとしたあたりから」
奉が猫の傍らにしゃがむと、猫は奉の手の甲に頭をすりつけた。…奉が少しだけ笑う。
「―――俺のことが大好きなんだ」
いつもと変わらない口調だったけど、僕はふと、思った。
奉も、寂しさを感じることがあるのだな。と。




目の前に置かれた湯呑の湯気が鼻先を掠め、ふと我に返った。
何故、今更俺はあんな昔の、なんてことのない一幕を思い
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