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霊群の杜
柿の精
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まっこて、さかしい子じゃ…
くろい、くろい群れ。俺の頭上を取り囲む、おとなたちの群れ。
皆が俺を称える。さかしい子じゃ、まっこて、さかしい子じゃ。
てんがらもんじゃ、てんぎゃんじゃ。…口々に云う。


てんがらもん も てんぎゃん も、ヒトじゃあなかろうに。


じゃがのう。
さかしい子は、悪い心を持つ大人になると、よくないこと、ずるいことを思いつく。
俺を取り囲んだおとなたちは、白痴のような黒い顔を並べて、口を開けて俺を見下ろす。
俺は睨み返した。
俺を取り囲む大人たちの向こうに、泣きそうな顔をした子供達の姿が見えた。
つい、舌打ちが出る。
『こんな場面』を子供達に見せる気か?


おとなにしちゃ、なんね。
んだ、なんね。
んだ、んだ、んだ、んだ………


重い鉄の鍬が振り下ろされる。何十本、何百本………
まだ死ぬわけにはいかないのに。
もうすぐ、『あれ』がやってくる。
伝えないと。
せめて、子供達に。
備えろ、と。
つたえないと。


俺は汗にまみれて跳ね起きた。


「―――あぁ、もうそんな時期か」
寝不足でふらつく足で長い石段を登り切り、柿の木の下で休んでいる俺をいち早く見つけたのは、珍しく洞から出ていた奉だった。
「そうだよ。早く取ってくれ」
玉群神社の鳥居の脇に自生する、樹齢400年を超える柿の巨木がある。
注連縄が張り巡らされた奇妙な柿の木だ。庭師である親父が毎年注連縄を張り替え、実に丁寧に手入れをしている。
「ここのご神木だからなぁ…」
親父は一度だけ、俺に妙な事を云った。
「実が熟したら落として、干し柿を作れ。実を蔑ろにされると祟るんだよ」
その話を聞いて以来、毎年のように俺はこの悪夢を見る。
遥か昔の農村。頭は良いが無力な少年。彼が村人たちに鍬で滅多打ちにされるというバッドエンドで目が覚めるのだ。こういう場合、普通『鍬で打たれる瞬間』に目が覚めるのだと思うんだが、この夢の場合、彼は鍬でひたすら滅多打ちにされる。
滅多打ちにされながら『備えろ』『備えろ』と訴え続けるという。なんの拷問だ。
そして最悪なことに、この夢は鳥居脇の柿の実を収穫するまで繰り返される。
そして親父の話では『実を蔑ろにすると祟られる』という。普通神社で採れたものは食うものじゃないんだが、仕方ないので干した実を参詣者に振る舞う…というか本殿に『ご自由にどうぞ』と書かれた立て札と共に放置する。
「面倒くさいねぇ……あの眼鏡女でも呼ぶか……いや、戦力にならんか、どんくさそうだからねぇ」
「最悪だなお前」
「あぁ、そういやそろそろ鴫崎が来るか」
「よせよ、死ねって云われて一蹴されるだけだぞ」
「じゃ、今年もアレだ」
「―――気がひけるなぁ」
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