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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八話 ポイント・オブ・ノーリターン
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力が有った……。そして最終的には我々を助けてくれた。確かに貴官は我々の敵ではない」

「……小官の実戦指揮能力などたいしたものでは有りませんよ」
「そんな事は無い、貴官はミハマ中尉と戦術シミュレーションをしているな。彼女の能力は決して低くない、だが貴官はその彼女をあっさりと破っている」

少佐が私をジロリと見ました。思わず身がすくむような視線でした。
「軍上層部は貴官の能力を高く評価している。そしてその能力を同盟のために積極的に遣うべきだと考えているのだ」
「……」

しばらくの間沈黙がありました。少佐は俯いて目を閉じています。眠っているのかと思えるほど静かだけど両手は何かに耐えるかのようにきつく握り締められています。
「小官が要求するものは全て用意してもらえますか?」
「全て?」
「物資、武器、人……、全てです」

キャゼルヌ大佐は頷くとゆっくりとした口調で少佐に答えました。
「分かった、約束しよう。必ず用意する」
「……ヴァンフリート4=2に行きます」
そう言うと少佐は立ち上がってキャゼルヌ大佐に敬礼しました。私も慌てて席を立ち敬礼します。私の敬礼が終わる前に少佐は身を翻して部屋を出ようとしていました。



宇宙暦 794年 1月30日 ハイネセン 後方勤務本部 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



本気か? 本気でヴァンフリート4=2に行くのか? 行けばラインハルトと戦う事になる、それでも行くのか? 未来の銀河帝国皇帝と戦う? 正気じゃないな……。あの男に勝てるとでも思っているのか? うぬぼれるな、お前などあの黄金獅子の前では無力なウサギのようなものだ……。

行くしかないだろう……。どれほど望まなくとも命令とあれば行かざるをえない。まして命令は必ずしも理不尽なものではない。キャゼルヌ大佐はこちらの要求を全て受け入れると言っている。

ヴァンフリート4=2か……。基地にはヘルマン・フォン・リューネブルク、ラインハルト・フォン・ミューゼル、ジークフリード・キルヒアイスが攻めてくる。彼らと戦う……。

原作どおりに行くのなら俺は戦死か捕虜だろう。捕虜と言っても亡命者だ、帝国にとっては裏切り者、となれば嬲り殺しだな。そしてサアヤも捕虜になる。若い女性の捕虜では待っている未来は決して明るくない、悲惨なものだろう……。

殺されるのか? それで良いのか? 俺が死ねばどうなる? カストロプは喜ぶだろう、そして多くの帝国人は裏切り者が死んだと喜ぶに違いない。悲しんでくれるのはミュラーを含むほんの数人だろう……。

シトレやトリューニヒトは表面上は悲しむだろうが、俺の死を利用する事を考えるだろう。生きている英雄よりも死んだ英雄のほうが従順で利用し易いというわけだ、クソッタレが……。

……死ね
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