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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二話 監視役
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視する人間が出てくる”

一理有るがこちらとしては彼の能力確認のためのテストだ、拒否は許さない。再度戦術シミュレーションの実施を命じると溜息を吐いて“一度だけだ”と言ってきた。そして驚いた事に対戦相手にヤン中佐を指名してきた。

当初予定していたのはワイドボーン中佐か、フォーク大尉だった。ヤン中佐は面倒だといって辞退していたのだ。そのヤン中佐をヴァレンシュタイン中尉が指名した……。ワイドボーン、フォーク、彼らでは駄目なのかと尋ねるとただ一言“エル・ファシルの英雄が良い”、そう言って笑みを浮かべた。

シミュレーションは遭遇戦の形で行なわれた。純粋に戦術能力を確認するためだ。周囲が見守る中、シミュレーションルームに両名が入り対戦が開始された。対戦は当初、ヤン中佐とヴァレンシュタイン中尉の両者が攻め合う形で進んだ。だが一時間も経つとヤン中佐が優勢になった。ヤン中佐が攻め、ヴァレンシュタイン中尉が後退しながら受ける形勢になる。

そのまま一時間も経っただろうか、突然シミュレーションが打ち切られた。最初はヴァレンシュタイン中尉が打ち切ったのかと思ったがそうではなかった。優勢に進めていたヤン中佐が打ち切っていた。

皆が訝しげな表情をする中、シミュレーションルームから表情を強張らせてヤン中佐が出てきた。そして幾分困惑を浮かべながらヴァレンシュタイン中尉が出てくる。
「参りました。勉強になりました」

中尉はヤン中佐にそう告げると頭を下げた。しかしヤン中佐は無言でヴァレンシュタイン中尉を見ている。中尉が困ったように笑みを浮かべるのが見えた。まるで悪戯が見つかって謝っている子供とその悪戯を見つけた怖い父親のような二人だった。

勝っていたのはヤン中佐だ。だがシミュレーションを打ち切ったのもヤン中佐だ。そして終了後の二人はまるで勝者はヴァレンシュタイン中尉だとでも言っているかのようだった。皆がヤンに何故シミュレーションを打ち切ったのかを尋ねたが彼は無言で首を振るだけだった。一体何が有ったのか……。

「あのシミュレーションで一体何があったのかな。皆不思議に思っているのだが」
私の問いかけにヤン中佐はしばらく黙っていたが溜息を一つ吐くと話し始めた。
「あのシミュレーションですが、私は勝っていません」
「勝っていない……、しかしどう見ても君が優勢だったが?」

私の言葉にヤン中佐が表情を顰めた。
「そう見えただけです。ヴァレンシュタイン中尉が本気で攻めてきたのは最初の三十分です。あとは防御に、いや後退に専念していました。彼は勝つ気が無かったんです。いかに自軍の損害を少なくして撤退するかを実行していました」
「君の思い過ごしではないのかね?」

ヤン中佐がそれは無いというように首を振った。
「私は攻勢をかけながら時折隙を見せ、
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