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霊群の杜
七人同行
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奴がいることがむしろ、俺には衝撃だった。
「―――そろそろ『そういう連中』が出る頃か、とは思っていたよ」
「どういう…」
「言い伝えを知りながら、ただの昔話と一蹴する若い世代。…当然の、極めて健全な反応だねぇ。他の事であれば、そのまま言い伝えの方が消えていくのを待つのだが…」
だが、これだけはちょいと訳ありでねぇ…と呟き、奉は軽く伸びをした。
「…よし、結貴。八墓村の婆ぁのように不吉な感じで止めてこい」
「あの婆ぁも失敗してただろうがふざけんなよ」
「あーね……俺も行くかねぇ……」
それだけ云って、奉は軽い寝息を立て始めた。きじとらさんが薄手の毛布を運んで来た。近頃は肌寒い日が続くからか、すっかり和装が増えた。今日は山吹色の着物に蝦茶色の袴を合わせている。秋らしい繊細な色使い…だがこれを山寺の野寺坊がチョイスしているのかと思うと、何かもやもやする。
「奉様のうたた寝が増えると、秋という感じがします」
おい、風物詩にされてんぞ。
「すみませんね、この横着者は。…そうだ、きじとらさん。24日、奉を借ります」
「海釣りですか」
ああ、聞いてたのか。
「私も行きます。…皆さんのお弁当、用意しておきますね」
心なしか、きじとらさんの声が弾んでいたような気がする。
魚…そうか、魚。
……頑張ろう。きじとらさんをしょんぼりさせないように。



まだ朝焼けの気配が残る埠頭から漁船が離れたのは、7時過ぎだった。言い出しっぺの綿貫が大幅に遅刻したのだ。
「わり、ほんと最近布団から出れないわ」
他の乗り合い客からの冷たい視線(きじとらさん含む)から避けるように、綿貫は船室に潜り込んだ。…慌てて駆け付けたものだから、まだ何の準備も出来ていないのだろう。外では既に撒き餌が始まっていた。
「俺もう出てるからな」
一声かけて、俺も甲板に出た。
船室のドアを開け放つと、この時期にしては強い潮風が頬を打った。まだ影が長く色濃い甲板を、薄い煙が覆っている。…いや何これ、けむい。

煙の元は、きじとらさんの焚く七輪だった。

乗り合いのおじさんたちが、ざわざわしている。『なんだよあいつら』『気ィ早っ』などと呟く声が聞こえてきた。
―――ごめん、一瞬この人に近付くのをためらってしまった。
きじとらさんは俺の姿を見つけると、練炭を仰ぐ手を止めて、じっと凝視してきた。『ここは、お魚が夢のように釣れる船なのですね』『すぐにお魚、焼けるのですよね』そんな無言のプレッシャーがぐいぐいくる。
「……おい、奉」
気が付かないふりをして奉に声を掛けるが、奴は呑気に一本釣りの仕掛けを始めている。
「……きじとらさん、ものすごい釣れると思ってるぞ。こっちもプロじゃないんだからボウズの場合だってあるって理解してないんじゃないのか」
「さぁねえ。気
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