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霊群の杜
戦場ヶ火
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すっかり遅くなってしまった。


やっと退院する気になった奉を、気が変わらないうちに書の洞に戻すミッションを終え、赤帽を雇って入院中にamazonで購入した本を運び込んだら、すっかり日が暮れてしまった。まだ6時になったばかりだが、いつの間にか日が落ちるのが早まったようだ。
仄かな残光に浮かび上がる、枯れ落ちた向日葵の残骸は朽ちゆくままに放置されている。不吉な妖が参道に押し寄せてきているかのようだ。小梅を喜ばせる為に用意された向日葵の小道だったが、今や近所の小学生にも気味悪がられている。小梅なんて連れて来た日には、号泣されることだろう。このまま放っておくと肝試しスポットにでもされかねないので、明日にでもまた来てむしっておかないと。
というか…この山の参道を手入れしている『誰か』が居たはずなのだが、そいつは向日葵は片付けなかったらしい。他の草は軽く刈り込んであるのに。
「怖……」
どうでもいい言葉ばかりが零れる。


―――私は、奉の契約を切るよ


縁ちゃんの言葉が何度もエコーする。
俺なりに何度も考えた。奉の契約が切れる、その意味を。
多分、今の奉が変わることはないのだろう。ただ…奉が転生しては玉群に蘇る神だというのが仮に本当だとするなら。
奉はもう、玉群に生まれることはない。
胃がきりきりと疼いた。
奉が生まれなければ、誰にも知られずに殺される子供は居なくなる。俺たちを祟った子供達の群れも、恨みの対象を失えば、長い時間はかかるかもしれないがそのうち霧散していくことだろう。
本当に玉群が消えるかは、正直なところ分からない。奉と契約した頃とは時代が違う。…普通に考えれば。


馬鹿か。俺がうじうじ考えてどうする。無理やり拵えた歪みが、在るべき姿に戻るだけだ。


ぽう、と参道を囲む林の暗がりに灯りが見えた。
参道を手入れしている人かもしれないな、と目を凝らすが、不思議と正体が掴めない。ただその灯りは、小さくゆらめきながら動いている。誰かが入り込んでいることは…確かなのだろう。俺は向日葵の残骸を跨いで、灯りの方に踏み込んだ。


水底にでも沈んだのか


向日葵の向こう側に踏み込んだ途端、冷気が全身を押し包んだ。
いやおかしいだろこの寒暖差。たった一歩だぞ。これはやばい、あの灯りに近付くと変な事に巻き込まれる。俺は咄嗟に振り向いた。だが背後は見覚えのない暗がりが、のっぺりと広がっているだけだ。


―――ここは、何処だ。


さぁ、と全身の血が引いた。俺の腰ほどもあろうかという草叢の中、一つだった灯りは二つ、三つ、四つと数を増やし、瞬く間に数えきれない程になった。灯りは増えたのに、ちっとも明るくならない。いやに眩しいのに、何をも照らし出さない、奇妙な光
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