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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第三話 秀清との密約
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「もう少し荷物を丁寧に運べ」と小言を言っているのが聞こえてきた。俺は振り返らず、目的の物を探した。
 ある筈なんだがな。俺は米と味噌を探していた。
 この時代は食糧事情はすこぶる悪い。お店に買いに行けば直ぐに食料が手に入るものじゃない。特に味噌は普段の食料だけでなく、戦時は保存食として米と一緒に兵糧として扱われていた。そのため、武士は味噌を自給自足していた。中でも織田・豊臣の発祥の地である尾張国は織田信長や豊臣秀吉の政策の影響もあり味噌の醸造に力を入れていた。
 義父も当面の生活必需品である米と味噌を持たせてくれると思ったが、俺の思惑は外れてしまったかな。少し不安になる。俺は懐の中に手を入れた。今日の所は秀吉の祝儀を使うしかない。

「殿様、何を探しておいでなのでしょうか?」

 リクが俺に声をかけてきた。

「リク、米と味噌が無いかなと思ったんだ」
「それでしたら一番後ろの荷車だと思います」

 振り向きながらリクに聞くと、彼女は奥の方向を指さした。俺は彼女の指さす方向に向かった。五六歩進むと米俵と樽が視界に入ってきた。俺の鼻腔を味噌の香りが刺激した。やっぱり持たせてくれたか。持たせてくれなかったら、義父と義母を呪うところだった。

「リク、God Job!」

 俺は嬉しくてついつい英語で言ってしまった。いつも気をつけていたのだが、一人暮らしができると思い気持ちが舞い上がっている気がする。俺は不味いと咄嗟に口に手を当てる。
 俺は恐る恐るリクのことを見た。リクは俺の発した言葉の意味が分からず反応に困っているようだった。

「南蛮の言葉で『良い仕事をしたな』という意味だ。リク、良い仕事をしたな」

 俺は自らの行動をかき消すように必要以上に元気良くリクに言った。

「そんな。大したことじゃありません。殿様は南蛮の言葉も分かるんですね!」

 リクは照れた様子で俺に頭を下げた。気の強い感じがしたリクの可愛い反応に俺はついつい萌えてしまった。リクが良い子そうで良かった。
 それにリクは年下の俺に尊敬の目を向けている。

「殿様、米と味噌を運ぶのでしょうか?」

 俺とリクの会話に九蔵が割り込んできた。彼の表情は不安そうだった。九蔵とリクで荷車二台分の米と味噌を運ばされると思ったのかもしれない。俺も二人に運ばせるつもりはない。それに前の荷車の荷物を先に家屋に運び込まないと米と味噌を運び出すことは不可能だろう。ここから見えないが米倉と味噌倉は庭の奥にあるだろうから人足達に任せた方がいい。

「私達だけでこれを全部運ぶ込むのは流石に無理だろう」

 俺は米の味噌が積まれた荷車を指差しながら笑顔で九蔵に答えた。九蔵は安堵した表情になった。

「引越を手伝ってくれた者達に握り飯と味噌汁を振る舞ってや
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