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魔弾の王と戦姫〜獅子と黒竜の輪廻曲〜
第9話『戦姫の所作〜竜具を介して心に問う』
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『ブリューヌ・モルザイム平原荒地』





テナルディエ軍の敗残兵は、暁の落日を背にしてモルザイム平原の荒野を歩いていく。
足取りの悪さが戦果をものがたり、統率の取れない行軍こそ指揮官の不在を語っている。
その敗残兵の集団の正体は、凱によって戦闘力を奪われた、哀れなテナルディエ兵であった。
略奪の限りを尽くそうと、欲望の限りに暴れる予定だった連中は、逃亡する民の姿と遜色なかった。
古くからの名門。栄華を誇ったテナルディエ家の威光。千と揃えた騎士の威圧。それらは完璧に砕かれたのだ。

「あの黄金の騎士に短剣で腕を斬られたかと思ったんだが……なんともなかったんだ」

「オレもだ。なんか不思議な短剣だったな。背中を斬られたかと思ったんだが、打撲以外なんにもなかった」

「ああ……盾や甲冑、剣までも紙切れのように切断されたのに……」

「なぜなんだ?黄金の騎士に……命を奪われた奴が一人もいないなんて……」

「……殺されるかと思った」

「一体……何なのだ?あの黄金の騎士は……」

「て……天罰かもしれない。あれはワルフラーンが人の姿になって、俺達に罰を与えたんだ!」

ワルフラーンとは、ムオジネルの国旗に象徴される緋地に『角突き黄金兜と金剣』を携えた戦神である。
ジスタート介入までの間、アルサスを防衛した黄金の騎士を形容するならば、それが最も適切かもしれない。

確かに、黄金の角突き兜(ホーンクラウンの事)を付けていた。

確かに、黄金の剣(ただし、短剣。ウィルナイフ『不殺』の意志による黄金発光)を携えていた。

確かに、騎兵の能力を封じ、歩兵の大軍という利点を逆手にとり、人智を超えた身体能力で、我が軍を翻弄した。

まさに、戦いの神ワルフラーンだ。
もし、スティードが今回の遠征に従軍していたなら、冷静にこう分析していただろう。「なぜ、あれほどの男が野心をもたず、何を対価にして辺境の領民に力を貸し与えたのだ?」と――
それだけではない。
銀の髪の戦姫が、地竜を大気ごと薙ぎ払った。
赤い髪の若者が、飛竜を穿ち、貫いた。
この二つの人智を超越した事実が、戦神ワルフラーンに対する背信行為を罪深く意識させた。
今はザイアンも捕虜としてアルサスに連行されている。これから彼らが待つものは、テナルディエ公爵による苛烈な懲罰だ。

――その事実が、より一層彼らの帰還の足取りを重くさせた。――






『ジスタート・王宮庭園・中央噴水前』





ライトメリッツ公主のエレオノーラ=ヴィルターリア――エレンが、同じ戦姫であるソフィーヤ=オベルタス――ソフィーをともなって、王宮庭園に訪れたのは、謁見の閉幕から約半刻の事である。
ここを選んだ理由はある。
天を仰ぐよ
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