第二章 追憶のアイアンソード
第16話 勇者の剣
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月夜に照らされた城下町。
本来ならば静けさに包まれているはずの、その空間は今――突如始まった野党達の襲来により、混沌の渦へと巻き込まれていた。
飛び交う怒号と悲鳴。剣と剣が交わる轟音。幾重にも響き渡る叫びと衝撃音は、一向に絶える気配を見せない。
逃げ惑う人々を守るように、剣を取り賊に立ち向かう一角の騎士団。彼らは帝国兵への恐れを払拭するかの如く、勇ましい雄叫びを上げて野党達に挑んでいた。
――が。
「こいつら……よ、様子がおかしい! しょ、正気じゃないっ!?」
「斬られても怯まないなんて、気でも狂ってるのかよ!?」
盾で殴ろうと剣で斬ろうと、怯むことなく憑かれたように戦いを続ける野党達の――狂気の瞳に、呑まれつつあった。
「ウ、ガ、ァァアアッ!」
「グウ、ァァアッ!」
戦意ではない。むしろ、恐怖。
「何か」を恐れるあまり、狂気の渦へ堕ちた野獣達は、本能の赴くままに剣を振るう。
その「何か」に比べれば、騎士団の剣など気にもならないのだろう。それほどの恐怖が、男達を支配しているのだ。
悲鳴にも似た男達のけたたましい叫びは、獣の咆哮の如く夜空に響き渡り、騎士団の気勢を圧倒していた。
「どうなってるんだよこいつらは! なんでこんなに……!」
「とにかく下がれ! 退却して体勢を立て直せ!」
もし騎士団の気力が勝っていたならば、自分達の敗走が住民達の危機に直結するということを忘れることはなかっただろう。
退却している間に、どれほどの被害が齎されるのか――その重さを見失った彼らは、精神に異常を来たした野党達に背を向け、次々に戦線を離脱していく。
「あ、あ……!」
救うべき人々を、見捨てて。
――野党達の暴走により、炎上する料亭。そこから足を引きずるように地を這い、逃げようともがく少女が一人。
退却していく騎士団の背に、手を伸ばしていた。
しかし、彼らがそのが細い手に気づくことはなく、彼女の目に映る騎士団の姿は徐々に小さくなって行く。
そして――ついにその影が見えなくなる瞬間。
「ウギ、アァガアァッ!」
「ひっ……!」
彼女の視界を、狂人の姿が埋め尽くす。
振り上げられた斧と血走った眼の色は、少女の心に絶望を齎し、その顔から血の気を失わせる。
逃げる術もない。守ってくれる人間もいない。もはや少女には、死という末路しか残されていない。
誰もが、そう信じて疑わない――そんな光景が、彼女の前に広がっている。
「逃げろハンナぁあぁあ!」
その横から、壮年の男性が角材を振るって野党に挑み掛かるが、効果など望めるはずもなく――敢え無く、野党の肘鉄に沈められてしまうのだった。
「ごがぁっ……!」
「ルーケン、
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