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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十九話 流し雛の奏上
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皇紀五百六十八年 四月四日 午前第十刻 宮城内 謁見の間前
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 新城直衛


 〈皇国〉陸軍の礼装に身を包み謁見の間へと歩いていく新城直衛はあまりにも肌に合わない場所に辟易としていた。
 ――僕には、合わないな。
 礼装を着た義兄や豊久を思い出して自然とそう思った。
――義兄は扉の向こうに参列している。 豊久は――今頃はどうやって労役の手を抜くか腐心しているのだろう、本来収まりがつく筈なのは逆だろうに――
 苦笑を堪え切れずに唇を歪めて扉の前にたどり着く。
 そこには還暦に近い皇室式部官が二人の侍従武官を従えて待ち受けていた。式部官が探るように尋ねる。
「少佐、宜しいかな?」
 ――畜生、こういうのはアイツの役目だったのに、あの手紙の所為だ。あの野郎、無事に帰って来たら一杯やる前に殴らせてもらおうか。
 未だに肝が座らずに内心では、恨み言を零しながらも、新城は頷く。
 その様子を観察し、落胆した様子で式部官が口を開く。
「先に頂いた軍状報告の文面から受ける印象とは随分違いますな。
御国の最精鋭である第十一大隊の生え抜きと聞いておりました。余程の偉丈夫かと思っておりましたが」
 ――まぁ確かにそう取れる様に書いたのは僕だがそれにしても随分な言い方だ。

「ご期待に添えず申し訳ありません、式部官殿。もっとも、僕はそれを得意としているのだが。」
 新城の言葉に式部官は鼻白んだがすぐにそれを長年の経験で押さえ込むが、それを見逃さず、御付武官達はしてやった、と言いたげな微笑を浮かべた。
 軍の内では新城の評判は悪く、どの様に思われているかは想像に難くない。
だがそれ以上に同業者の団結意識が勝ったようだ。
 彼らが目礼をし、銀装飾を施された扉に向かう。
 式部官がその重厚な扉を厳かに開いた。

「駒州公御育預、〈皇国〉陸軍独立捜索剣虎兵第十一大隊大隊長、
〈皇国〉陸軍剣虎兵少佐兼〈皇国〉水軍名誉少佐・新城朝臣直衛殿。軍状報告御奏上の為、御入室!!」
 式部官が扉の様に重厚で厳格な声で告げた。

ふと思った。
 ――位階を持たない陸軍軍人が此処に呼ばれるのはこの指の動かし方まで形式詰めの式部官が勤めて以来初めてではないだろうか。
そんな事を考えながら謁見の間へと歩を進めた。


午前第十刻 宮城内 謁見の間
玉心ニ親シク接スル者 新城直衛


青檀に銀装飾を施した荘重な壁、奏上者の進むべき道を示す緑絨毯。
 ――皇家の求める有難味に満ち溢れた空間だ。
 新城ですらも建築芸術として感嘆を禁じ得ない程の場であった。
彼の視界には先導しようと前に歩む式部官が、そしてその左右には文武百官が立ち並んでいる。
 五将家の一角である安東家からは、東州公にして東州鎮台司令の安
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