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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十七話  俘虜の事情と元帥の事情
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奮闘している筈だ。
最後まで戦った唯一の将家の者である新城は確実に巻き込まれているだろう。

 豊久は半ば直感的に戦死や俘虜になった場合に備えて手紙で新城を代役として担いでおいたが、現状では内地の政争に関しては祖父や父達に任せる程度にしか考えていなかった。
 ――却説、あいつはどう動かされるかな、軍監本部を動かす手札か?
――いや、それだけでは止まらないな。何しろ守原家は大敗した上に最大の経済基盤を喪失したのだから、このままなら五将家の座から転落してもおかしくは無い。

 五将家の転落が現実味を帯びたのは、安東家が切欠であった、東州の維持、復興の為に家産を費やし、実際に破産寸前まで追い込まれていた事は他の四将家にとっても衝撃的であった。
そうした事例がある以上、大敗を喫し、守原の財政を大いに助けていた北領を喪った事で政治的な転落も十二分にありえる――そう守原が危機感を強めているであろうことはある意味当然の事である。この時点で守原家が強硬な手段に打って出る、そう馬堂少佐が推測することはけして不自然な事ではなかった。

 ――実仁親王のお陰で衆民の間での皇家の支持は高まった、親王殿下が禁裏の意思統一を行えば衆民院と執政府の協調を得る為には最高の材料になる。水軍は反対に回るだろう、それに加えて軍監本部の過半数を掌握出来れば何とかなる。
 ――其方に英雄の一人である新城を使い、駒城が陸軍首脳部を抑え込むか?
五将家内でも守原、宮野木には確実に恨まれるな。 特に宮野木は先代が院政(誤字に非ず)に追い込まれてからは特にそうだ。

 ――西原はどうかな? ある種、最も常識的な将家だから奪還派か。

 ――安東は利を失えば容易く手を引くだろう、東州の復興で家を潰しかけてからは実利主義に染まっている。護州が分け前を認めればあっさり奪還派につくだろうが、此方も利益をしめせばどうにか懐柔できるか。

 ――つまり、彼奴は駒城の家臣団の中でも嫌われている上に五将家の半数の恨みを買い取るワケだ・・・帰った後が怖いな。内憂外患としか言いようがない。

「気になる事があるのですか?」
 西田が真顔になって尋ねると、思考の沼に沈んでいた所を引き戻された馬堂少佐は目を瞬かせながら云った。
「ん、あぁ。内地での事さ。
多分大事になっているからね、後々の厄介事も聞いておくべきか、とね。」
そう言って官僚団に向かって歩きだす。

官僚達の先導者はロトミストロフ少尉候補生だった。
「少佐殿、貴官に面会者です。」
「ご苦労様です、トミストロフ少尉候補生」
豊久は答礼し、官僚団に向き直る。

「私は兵部省法務局で国際法務課の任じられている、栃沢奏任二等官だ」
 ――軍政を司る兵部省の法務官僚か、俘虜交換の担当者か。
 兵部省の法務局は兵部
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