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すきなもの

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午後八時二十七分。

燐は自分の勉強机の上で開いた、悪魔薬学の教科書とにらめっこをしながらうんうんと唸っていた。
シャーペンをくるくると回しながら机には向かっているものの、ノート自体はまだ白紙だった。
かのクラスメイトの秀才候補生の彼ならば、ものの数分で解けるような問題だったが、燐にとってはこの世の終わりと言っても過言ではない(いや、過言かも)。
ぱぁっと投げ出して猫とでも遊びたい気分だったが、燐の背後では、弟であり祓魔師の教師でもある雪男が目を光らせて監視しているのだった。




「兄さん、手が止まってるよ。」




「うっせぇ!クソ、ちょっと寝ただけでこんなにいじめてきやがって…このどエス眼鏡!」




「次に僕の授業で爆睡したら、宿題増やすって警告してあったじゃないか。自業自得だよ。
それから僕はどエスじゃないし、眼鏡は悪口にはならない。」




放つ言葉全てを説き伏せられ、なす術もなく燐は机に向かう。


あの夢の途中、燐のフルネームを思い切り叫んだのは他の誰でもなく雪男だった。
驚いて飛び起きた燐だったが、夢の内容は初めから終わりまでしっかりと覚えている。
普段なら夢を見たことさえも忘れている燐なので、とても珍しいことだった。

橙色に染まる寂しげな公園で出会う不思議な少女。

思い出すだけでロマンチックな気分がとまらない燐は、ウズウズして教科書から顔をそらした。
そしてそのまま振り向いて雪男に話しかける。




「なあ雪男、俺今日ヘンな夢見たんだけど。」




「兄さんがテストで満点取る夢とか?」




「…バカにしてんのかおまえ」




「してないよ。バカだとは思うけど。」




「むきゃー!いちいち突っかかってくんなよ!
違う、俺たちが子供の頃の夢だよ!」




雪男は燐の座る椅子のすぐ後ろで、愛銃の整備をしていた。
燐に背を向けた状態のため、雪男の手元は燐からは確認できなかった。
しかしカチャカチャとなる音は止まることはなく、燐の話を聞きながら作業を続けていることは確かだった。

すると雪男は、はあとため息を一つつくと、手を止めてそのまま首だけ燐の方へ振り返った。




「なに、子供の頃?」




「うんそう。雪男がまだ身体が弱くって、病院に通ってた頃さ、俺が公園に行ったまま帰りが遅かった日があっただろ?」




「ああ、あったあった。
病院から帰ったら、兄さんがまだ帰ってないなんて言うから、神父(とう)さんと2人で近所中を必死に探し回ったんだ。」




「結局俺は公園の遊具の中に隠れてて、ジジィにど叱られたっけな。」



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