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執務室の新人提督
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「それで……今日はこの配分で戦闘機を開発するのね?」
「うん、お願いしますよー」

 執務机を挟んで、加賀は提督に渡された書類を手に頷いた。現在秘書艦代理を務める加賀の、どこか疲れが見える相に提督は、
 
「……なんだい、疲れているなら他の空母の人を呼ぼうか?」

 そういった。その言葉が氷柱にでもなったのか。加賀は僅かに下がっていた肩を上げ、同じように少しばかり丸まっていた背を伸ばし、提督を睥睨した。そう例えるしかない目であった。
 
「大丈夫よ。提督、貴方を残して……沈むわけにはいかないわ」
「え、そんな大事なんです?」
「いえ、少し良くない物が見えただけよ……それで、提督?」
「はい?」

 一航戦の探る目に当てられ、提督は身じろいだ。そんな提督を気にもせず、加賀は一心に睨み続ける。常から冷たい相の加賀がそれを為せば、提督にどれほどのダメージを与えるかなど言うまでもないだろう。
 
「あの、加賀さん? 僕何かした? あれ、もしかして加賀さんのプリンとか食べちゃったとか?」
「やめてください、その話は私に効きます」

 一転、加賀は提督から目を離しじっと床を見つめ始めた。その瞳からは徐々に光が失われて行き、額からは大粒の汗が滲み出ていた。あ、これあかんやつや。そう悟った提督は少し大きく拍手を一つ打った。その音に驚いたのだろう、加賀は床から視線を離し提督をじっと見つめた。
 その瞳には光が戻っており、よく分からない危機から無事脱したのだと確信した提督は肩から力を抜いた。
 
「一航戦加賀、開発に向かいます」
「お願いします」

 加賀はいつもの様子を取り戻し、提督に敬礼を行ってから踵を返し扉へと向かっていく。扉を開け、そのまま閉じるのを提督が眺めて待っていると、加賀が顔を出した。
 
「な、なに?」
「……」

 らしからぬ加賀の姿に提督が口を開くも、加賀は執務室内、ルームランナー、そして最後に提督を見て小さな声で提督に、
 
「扶桑は、来ましたか?」

 そういった。それを聞いた提督は、頭をかいて首を横に振る。提督が覚えている限りでは、昨日来た中に扶桑は含まれていない。
 加賀は一つ頷いて、そうですか、と呟くと深々と頭を下げて扉を閉じた。
 
 ――はて、なんだろうか、あれは?

 自身の首を揉みながら提督は加賀が去っていた方向、つまり扉を暫し見つめたままでいたが、机の上にある少しばかりの書類を思い出して気持ちを切り替える事にした。各種書類を手に取り、今日はまた一段と少ない、と苦笑いでペンを取ると仕事を始めた。
 そして十分もすると――扉へもう一度目を向けた。
 何も言葉にせず、息さえ殺して提督はじっと扉を見つめる。意識を集中させた彼の耳には、扉の向こう、つまりは廊下から
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