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執務室の新人提督
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存した。マイペースで、大井を拒まない、最も近い存在である北上の存在だけが、大井の居場所になれた。大井が、その居場所以外を拒んだのだから。大井だけが傷を舐めてもらう不毛な日々は、しかし突如失せた。
 
 提督が、大井と北上を第一艦隊に編入したからだ。
 当然、大井は混乱もし、反発もした。居場所を決めてしまった彼女に、今更他の場所は必要なかったのだ。何もかもが弱い大井には、特に。
 
 ――北上さんに手を引かれて、嫌々出撃してたな、あの頃は。

 挙句、出撃早々大破もした。中破など何回やったか大井はもう覚えていない。いたいいたいと、イタイイタイと零して鎮守府に帰り、何度提督に毒を吐いたのか。それももう大井には分からない。 
 北上という存在が大井の傍に居なかったら、大井は提督に何事かをやってしまっていただろう。それが例えその当時不可能であったとしても。
 提督に命令されたのなら、艦娘達は従わなければならない。理解していても、積もっていく痛みと出撃回数だけが嵩んで行く日々は大井をにとって理不尽な時間でしかなかった。いつになったらこの時間は終わるのだと、何度嘆いただろう。だが、不思議と、この日は無理だ、と彼女が思う時だけは提督も彼女達を動かさなかった。
 
 弱い彼女は弱いなりに、平凡な軽巡洋艦娘として海上を駆り、火線走る砲雷音楽の世界を無様に回り続けた。危うい立ち回りも、第一艦隊の両目に助けられた。
 そんな彼女に変化があったのは、いつ頃であったのか。
 
 ――北上さんが活躍しはじめて、MVPとったり……私も、そうよね。
 
 北上のMVPに顔に大輪の花を咲かせた。そして、その頃から大井もまた戦場の主役足りえる存在になった。
 仲間達と戦い、共に帰還する。まだ守られる事の多い北上と大井であったが、そんな日々も大井は受けれていった。かつて大井を傷つけていた不気味なナイフは、もう無かった。
 
 そして、またその日々は変化する。始まりは、やはり提督だ。
 珍しく出撃を早めに切り上げたその日、提督は二人を工廠へと呼び出し――世界は、大井の世界は塗り替えられた。
 新しい世界の色に誰よりも驚いたのは、北上であり大井であった。
 平凡な軽巡洋艦娘は、その日からたった二人の重雷装巡洋艦娘になった。
 
 守られる側から、守る側へ。怯える者から、追う者へ。変わっていく大井の中で、一番変わったのは……北上と提督、両者への距離だろう。艦娘として、また少女として一人の足で立った時、大井は過去の自分が危うい状態であったと正確に理解できた。
 大井は北上に傷を舐めてもらう事をやめ、対等な者になろうと距離をとったのだ。それは、提督との接し方にも変化を表した。
 
 ――手探り、だったけど。
 
 あの苦しかった時間も、この為に合っ
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