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執務室の新人提督
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「ふむ……」

 時刻は2300。場所は提督の座す執務室。その部屋の主である提督を前にして、眼鏡をかけた青い改造セーラー服姿の女性――大淀は、机の上に置かれた今日の提督の成果である書類に目を通していた。丁寧に、見落としなく、初霜と提督が記入している予定表なども確認する。
 こうやって、最終確認し、各自の書類を大本営に提出するのが、大淀の仕事だ。
 
「質問、宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞー」

 書類から目を離し、眼鏡の蔓を指で微調整しながら、大淀は机を挟んで向かい合う提督の顔を見た。仕事を終えた男の顔ではなく、眠い、と正直に書いている顔だ。だらしなくもあり、頼りなくもある。
 が、大淀にとっては、それでこそ、とも言える。
 
「明日の演習の予定ですが、千代田さんを旗艦におく理由は?」
「早く軽空母にするべきだ。水母なら他に居るし、艦載機が余っている現状だと、空母の層を厚くしておきたい、かなー……と」
「なるほど……遠征はいつも通りでしたが、変更は?」
「ないよー。長距離、防空、海上。ローテーションの管理は大淀さんと初霜さんと、あとメンバーは……募集して、当人達のやる気次第でお願いします」
「了解しました。一応お聞きしますが、航路はどうされますか?」
「んー……」

 大淀の言葉に、提督は頭をかきながら天井を睨み、数度頷いた。

「許された範囲で、ランダム。"前"の失敗は繰り返すべきじゃあ、ない」
「了解です」

 大淀は提督の顔を見たまま、小さく一礼した。場合によっては、叱責が飛ぶだろう。提督から、大淀へ、だ。だが、それもない。提督はやはり、眠い、と顔に書いたままであるし、敬礼を強要する様な気配は一切ない。
 
 ――おまけに。
 
「それと、提督」
「んー?」
「明日の演習と、第一艦隊の展開ですが、これもいつも通りで?」
「任せたよ。僕はほら、ここで書類に目を通すしか脳がないからねー」

 これである。普通の提督と言うのは、艦隊行動を一人で決めたがる傾向にある。特に、着任したての提督などは、それが顕著だ。自身の力、能力を誇示し、艦娘達の頭をおさえつけ誰が艦隊のトップであるかはっきりと形にしておきたいらしい。それが自身を高みにいざない、周囲に平穏をもたらす秩序へ繋がると、本気で思っているのだろう。
 無論、そんな提督ばかりではなく、着任初日から艦娘と友好的に事を運ぼうとする提督も少ないわけではないし、経験をつんだ提督などは良く艦娘の意見を聞き、作戦行動に取り入れたりもする。
 
 のだが、ここまで事務オンリー、作戦もほとんどノータッチの提督は、相当に珍しい。大淀などは当初、無責任の塊で、作戦行動の失敗は全部艦娘に擦り付けるつもりではないかと疑っていたのだが、それらしい気配もやはりな
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