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主は誰か
第五章
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「禄も貰うことになったが」
「その禄が、ですか」
「相当なものじゃった、それにじゃ」
「さらにですか」
「母上のことも気遣って下さっていた」
 信長のその気配りについてもだ、明智は話した。
「このことは思いも寄らなかった」
「そこまでご存知で」
「うむ、気遣って下さるとはな」
「殿、お言葉ですが」
 従者はこう前置きをしてから主に話した。
「義景様も義秋様も」
「ご自身のことには熱心じゃがな」
「家臣の方々にはとても」
「うむ、そうしたお気遣いはされぬ」
 このことはよくわかっていた、明智も。
「全くな」
「左様ですな」
「しかしな」
「織田殿はですか」
「そこまで気配りをしてくれた、何か」
 明智は馬を進めつつだ、考える顔になっていた。
 そしてその考える顔でだ、従者に話した。
「わしはああした方にこそな」
「お仕えしたいですか」
「そう思えてきたわ」
「やはり自分のことを気遣ってくれる方にですな」
「お仕えしたい、禄のことも無論あるが」
 それ以上にというのだ。
「そのこともな」
「ですか、では」
「考えよう、幕府も力はなく義秋様もな」
 その彼もというのだ。
「その器をよく見て考えよう」
「そしてそのうえで」
「これからのことも考えよう」
 こう従者と話しつつだった、彼は幕府に戻った。そして義秋に報をして彼をその目で見てから従者のところに戻って話した。
「決まったわ」
「左様ですか」
「わしはこの禄を大事にする」
 こう言ってだ、彼はこの時から信長に近付く様になった。そして幕府が滅びた時にだ、彼は都を落ちる義昭にこう言われた。
「御主は幕臣、余の臣でありながら」
「公方様を見捨てたと言われますか」
「この不忠者が、何という奴じゃ」
「それがしの主は一人です」
 明智はその義昭も瞑目する様にして答えた。
「織田上総ノ介様だけです」
「あの余を散々ないがしろにする者がか」
「それがし、織田様には篤く用いてもらい多くのものも頂きです」
 そしてというのだ。
「色々と仕事を任され気も遣って頂いております」
「だからだというのか」
「はい、織田様にお仕えします」
 そうだとだ、明智は義昭に話した。
「それがしを知り任せ気遣ってくれる方であるが故に」
「しかし謀反人じゃぞ、余に対する」
「そうした問題ではありませぬ」
 明智は義昭に静かに答えた、そしてだった。
 怒りに震える義昭を見送った、後に本能寺の変を起こす彼だがその原因は今だもってわかっていない。しかし彼がその本能寺の変の時まで信長に忠義を尽くし篤く用いてもらっていたのは紛れもない事実であろう、その際にはこうしたこともあったのではないかと思われる。


主は誰か   完


   
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