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IF 完全平和ルート
偽装結婚シリーズ
偽装結婚の裏舞台

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「あー、えー。結婚式? そんな物挙げる予定も無いし、挙げる気もないんだけど……」

 ひらひらと二人分の署名が記されている薄っぺらな用紙を弄りながら、その人は心底気乗りしない様子でそう宣言した。

「しかし、それでは納得しない者が多いのでは……?」
「と、桃華殿の言う通りです! せめて式だけでもお願いします、火影様!!」

 何故だか当事者以上に必死になっている黒髪の生真面目な面差しの青年の言葉に、その人は困った様に顔を歪ませた。

「いや。別に式を挙げなくてもオレ達に関しては誰も困らんだろ。どうせこんなの茶番劇みたいなもんだし」
「それは分かっておりますけど、でもですね……!」

 所詮こんな物は偽装結婚であってそれ以上でもそれ以下でもないのだ、と言外に宣言しているその人に向かって、尚も青年は食い下がる。

「あいつは結婚しなさい攻撃から、オレは結婚してくれ攻撃から。それぞれ互いに互いの縁談避けになる事を目的に、こんな茶番劇をする羽目になっただけだし」

 緑色の輝きを帯びた黒瞳が、青年を見やる。
 罪悪感と後悔の色で染め上げられていたその両眼はその人の白い掌で覆われた。

「つーか、マジであんな事申し込んじゃったんだろ、あの日のオレ……。受けてくれたあいつもあいつだが……」

 はぁ、と申し訳無さそうに眉間に皺を寄せ、その人は前髪を鬱陶し気に払った。

「自分とて今回の一件が偽装結婚というのは存じておりますとも! けど……!」
「……これ以上、オレの問題にあいつを巻き込む訳にもいかんだろ。でもどうしても、っていうなら」

 拳を握って唾を飛ばす勢いの青年に、その人は良い事を思いついたとばかりに手を打った。

「ヒカク殿がオレに変化して花嫁の席に座ってくれればいいじゃん! それで万事解決だ」
「な、なんでオレがする話になっているんですかっ!? 嫌ですよ!!」

 ――状況を静かに見守っていた左目を前髪で隠した女は、一人溜め息を吐いたのであった。
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