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SNOW ROSE
兄弟の章
I
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ぜる音くらいなものである。
「今日も寒いなぁ。」
 ケインの衰えゆく躰には、この寒さは応える。小さな暖炉の火だけでは、部屋全体を暖めるだけの力はなかった。
 ふと、コンコンッ…と、ドアをノックする音がした。
「はい。」
 ケインがその音に返事をすると、祖母が食事を持って入って来た。
 皿の中からは美味しそうな湯気が立っている。
「調子はどうだい?今日も冷えるから、これを食べて温まりなさい。」
 祖母はテーブルに食事を置いて、ケインが起き上がり易いよう手を貸した。
「いつもすみません…。」
 ケインは弱々しくそう呟いた。
 それを聞いた祖母はケインを起き上がらせると、ケインの顔を見てこう言った。
「ケイン、何を言ってるんだい。お前は私たちの大事な孫だよ。何の遠慮が要るものかね。大切なもんのために何かしてやれるってのは、とても幸せなことなんだよ。だからね、ケインはしっかりと病を治すことだけを考えてればいいんだよ。」
 祖母はケインの頭を撫でながら、「冷めちまうから早くお食べ。」と言って、湯気の立つ皿を差し出したのであった。


 翌日の昼のこと。
 ケインはいつものようにベッドの上だが、一つ気になることがあった。

― ここ三日、兄さんの姿が見えないけど…。どうしちゃったのかなぁ…。 ―

 一日だけ用を足しに出掛けることはよくあるが、三日も会わないことなぞ今までなかったのだ。
 兄のジョージは、時折出掛けては夜更けに帰って来ることもあった。それは何か習いごとでもしているかのようでもあった。
 祖父母には話しているようではあったが、ケインには何も話してはくれなかったのだ。
 だが、ケインは感付いていた。兄の指先が父の生前のそれにそっくりになっていたことを。

― 兄さん、諦めてなかったんだ…。僕も諦めずに頑張らないと。 ―

 兄と会う度、自分の諦めかけていた夢をケインは紙の上に創造しているのであった。
― いつか、兄さんのために、何か役に立つものを残したい。 ―

 それは絶対的な願いであり、命続く限り遂行する仕事のようなものでもあった。
 また、ジョージは時に甘い香りをその身に付けて、菓子を土産に帰って来る時もあった。
 彼はケインに近所の集まりで習っていると言っていたが、そのどれもが売り物のようなものばかり。雑な包みに入ってなければ、買ってきたと言っても分からないだろう。
 そんな兄である。何でも出来てしまうことは知っていた。器用な上に勤勉なのだ。
 元来の気質と言っても良いだろう。
 しかし、ケインは残り少ない時間を、兄と共に過ごしたいだけなのだ。

― 兄さん…。 ―

 ケインは心配になった。
 そんなことを考えていると、不意にコンコンッ…と誰かがドアを叩いた。
「は
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