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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
14部分:第十四章
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第十四章

 シャワーを浴び終えるとそこから出て身体を拭いてだ。ギリシア彫刻を思わせる見事な裸身をそのままに鏡の前に出て髪を整えにかかる。その時だった。
「見ているのね」
「今出て来たところよ」
 鏡の正面、沙耶香と向かい合う形だった。その形であの死美人が出て来ていた。そうしてそのうえで彼女に対して言ってみせてきたのである。
 そしてだ。美女はまた彼女に言ってきた。
「楽しんでいるのはわかっていたから」
「それは見なかったのね」
「人のそうしたことを見る趣味はないわ」
 そうだというのである。
「それはね」
「いい趣味ね。ただ私は」
「貴女は?」
「それでもいいわよ」
 唇の両端と目元を妖しく細めさせてだ。そのうえでの言葉であった。
「それもまた楽しいものよ」
「見られてもいいのかしら」
「一度に何人も相手にすれば」
 沙耶香にとっては時々あることである。同時に二人でも三人でも愛し褥を共にしたことがある。それが沙耶香の日々なのである。
「それもまたあることよ」
「だからなのね」
「そうよ。けれどそれは見なかったのね」
「何度も言うけれどそうした趣味はないわ」
 死美人も言うのであった。それはしないと。彼女もまたその美しいが青ざめた顔の血の気のない唇を妖しく微笑まさせてだ。そうして言ってみせたのだ。
「私はあくまで自分が愛するだけだから」
「それでなのね」
「他の人が楽しむところを見ても何も思わないわ」
 これが美女であった。
「だからね」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ。今からかしら」
「いえ」
 その言葉は否定した。一言であった。
「それはいいわ」
「しないというのね」
「まだよ。然るべき場所でね」
「そして然るべき時に」
「その二つが合わさった時にこそ」
 沙耶香は言ってみせるのであった。
「だから今は違うわ」
「わかったわ。ではまたね」
「そうね。それでは私はまた」
「また楽しむのね」
「楽しみは長い方がいいものよ」
 沙耶香の瞳もまた同じだった。妖しい光を放ってだ。その光は琥珀の輝きではあったが他のものも入っていた。例えて言うならば闇の中に紅く輝く、そうした宝珠の輝きを見せていたのである。
 その輝きを見せながらだ。沙耶香は死美人を見てだ。そうしての言葉だった。
「ではまたね」
「好きなようにしたらいいわ」 
 死美人の返答はまずは寛容なものに聞こえた。
「今はね。すぐに私のものになるから」
「だからだというのね」
「言ったけれど私は欲しいものは全て手に入れるのよ」
「全てね」
「そう、全てよ」
 こう言ってみせるのである。
「全てを手に入れるのだからね」
「ならそうするといいわ」
 沙耶香も悠然と返した。
「私もそうだから」

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