魔窟の森 2
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十歳前後の子供にしか見えない真っ白なエルフ十人に囲まれたクロスツェルは、まず地面に両膝を突いた。エルフ達はギョッとして捕まえていた腕を離してしまう。
立ち膝の状態から踵に腰を下ろして背筋を伸ばし、解放された両手を膝の上に重ねて置く。
顎を引き気味に、目線は真っ直ぐ正面。
「えーと……」
何故。この場面で座る？
エルフ達は困惑した表情を互いに見合わせる。
ベゼドラと向き合っていたエルフも、思いがけない行動に目を丸くした。
小柄なエルフ達に埋もれたクロスツェルを、ベゼドラだけが逃げ出したいと顔に書いて見下ろす。
「……良いですか、皆さん」
深く息を吸い込んだクロスツェルは、静かに、滑舌良く、耳に心地好い声で、言葉を紡ぎ始める。
「私達人間や悪魔が聖なる神々に遠く及ばぬ愚かな生物であるとは、自他共に認めなければならない事実でありましょう。何故なら、人間も悪魔もその他生ける者も総て、例外無く不完全であるからです。しかし、その不完全な生物を作り出されたのは創造神であり、創造神の行いには尊い意味が込められている筈。なればこそ、生物は創造神の僕たる神々を標として崇拝し、教えを正しいものとして胸に刻んでいるのです。その教えが意味するところは、一日二日、一月二月、十年二十年で汲み取れる浅い真意などではなく、場合によっては一生を懸けても掌では掬い得ぬ、地底深くから溢れ出る湧水のようなもの。私達は不完全であるが故に、追い続ける難しさを生涯痛感し続けなければなりません。時には迷いましょう。己の役目を棄てたくなる日もありましょう。正しさを棄てて背く者も居ます。不完全な生物には命の刻に限りが有り、それもまた創造神の深き御心によって定められた物。即ち、道に迷い外れる事すら創造神の導きに含まれていると解釈できるのではないかと。愚かで汚らわしい無知な生物は、創造神がならぬと仰れば消し去るのに瞬き一つの間も要らない筈。ですが、現在もこうして私達は存在している。私達の行いが、彼の御方の手中を出ていないという何よりの証と思います。つまり、愚かな者を愚かと断じて生命を奪う事も、愚かな者を哀れなりと迎え入れる事も、創造神の導きの内。御理解いただけますでしょうか。貴方達が汚れと思うのは其方の都合でありましょうが、その汚れも創造神が作り出された、謂わば兄弟。手を取り合う道も存在しているのですよ。ほら、こうして創造神の心の内を勝手に推して不遜な態度で語る傲慢で無知で愚かな人間にすら、創造神は罰をお与えにならないでしょう？」
必殺。クロスツェルのお説教。
要するに「貴方達がどう思おうと関係無い。貴方達の上司はどうでもいいと言ってるんだから、上司の肩書きを傘にした門前払いは止めてくれる？」……と言ったのだ。それはもう、回りくどく。
ベゼドラとクロスツェル以外
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