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Impossible Dish
第四食
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「えっと、おじ様、これはどういう……?」

 いつものように厨房の清掃を終え、溜まりに溜まっていた紙束の山を片付け終えたところで、(なおと)は困惑の声を漏らす。
 と言うのも、えりな様に認められる一品を作るという課題が与えられてから早くも一週間が過ぎようとしているけど、それまで忙殺されていたのか一回も顔を見せなかった仙左衛門(おじ)様が唐突に挨拶にいらっしゃったのだ。

 おじ様は日本食界の頂点に座すお方だ。さぞかし多忙な日々をお過ごしでしょうに、わざわざ僕のために週に二・三回ご足労頂いている。しかし時間帯はお仕事が終える22時ころにいらっしゃるのが一般だった。
 だが今回は早朝、加ええりな様を連れていらっしゃったのだ。僕が戸惑うのも仕方のないことだった。
 とは言え無駄に呆けていては無礼だ。釈然としない頭でもてきぱきとおじ様がいつもお召しになられている椅子を持ってきて、えりな様にも失礼ながら僕が使っている椅子をお出しした。

 小さく会釈をして着席されたえりな様を見計らって、おじ様は威厳ある咳払いを一つ入れた。

「うむ。最近顔を出せずにすまなかった。変わらず励んでいるようで何より」
「いえ、過分なる施しを頂きまして恐縮です」
「そこでだなおと、君に一つ頼みごとがあるんじゃが良いかな?」
「喜んで引き受けましょう」

 僕の即答に満足そうに頷いたおじ様は隣に座るえりな様に目配せをした。どうやら頼みごとというのはえりな様からのようだ。一瞥を貰ったえりな様は少し躊躇いがちに目を伏せ膝の上で手を世話しなく組みなおした。
 僅かな沈黙が場に訪れたけど、すぐに通りの良い声が破った。

「私に料理を教えてほしいの」
「……え? 僕が、ですか?」

 あっさりと焼付け刃の礼儀が剥がれ落ちてしまい、身の程を忘れて聞き返してしまった。あまりに突飛な事だったので聞き間違いかと思ったが、えりな様は僕の失礼な態度に紅潮で怒りを示し、咎めるように眉根を寄せた。

「何か文句でもあるのかしら」
「滅相もございません、無礼をお許しください。ただ、未熟に過ぎる身である自分が、果たして教鞭を取る資格があるものかと……」
「その点については問題無い。今のなおとならえりなを任せてられる」

 おじ様に今の腕を評価してもらえて恐縮の至りだけど、やはりなぜ僕がという疑念が蟠る。もちろんえりな様のご指導にあたるのに不服という意味ではなく、ここ薙切家は多くの凄腕料理人を抱えているのになぜ彼らに師事しないのかと思ったからだ。
 疑問が顔に出てしまったのか、おじ様はすかさず言い足した。

「実は身内の者たちはえりなが料理人になることに否定的でな。煩わしい理由が細々固まった結果だが……、儂はそう思わなかった。勿論儂の独断で適した教師
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