侵食する意思
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い。
殺意と同時に存在する、矛盾した複数の想い。
それだけの想いを募らせたのは禁欲の反動なのか、元々隠し持っていた衝動だったのか。どちらにしても面白くはない。
あれはロザリアだが、やはりアリアに間違いないのだ。
殺しても殺し足りない、美しくも忌々しい女。
「……っくそ!」
螺旋状の階段を上っていく途中、石壁で頭を叩いた。痛みは感じるが、苛立ちで濁った思考は晴れない。
力が要る。もっとたくさんの強い力が。少しでも早く、多く。
だが、証拠が残らないとは言え、手当たり次第に喰らうのは利口な遣り方ではない。既に数人の信徒が失踪した形になっている。できる限り身内が少ない、いなくなっても大事にならない女を選んでいたが、教会繋がりで立て続けに失踪者が出れば不審に思われる。問題を起こせば人は寄り付かなくなり、信徒の減少はロザリアの封印に綻びを作ってしまう。力が戻ればロザリアは確実に教会から逃げ出す。
彼女を教会に繋ぎ止めていたクロスツェルは、もう居ないのだから。
そうはさせるかと思った瞬間に鋭い痛みを訴えたのは、壁に打ち付けた頭ではなく、胸の奥。失う恐怖に縮んだ心臓。
「……黙れ! お前が望んだ事だ!」
行かないで。傍に居て。幸せになって。愛してる、ロザリア。君を愛してる。
「黙れ……っ!」
もう一度壁に頭を叩き付けて、クロスツェルの声を掻き消す。
額から伸びた赤い線が、頬を、顎を伝い、雫となって足元にパタパタと落ちた。
「面倒な……。殺してしまえば一夜と掛からずに終わらせられるものを」
唇を噛んで地下室を睨むが……結局、クロスツェルの声が在る限り、どれだけ殺したくても殺せないのだ。こんな事は初めてで、声の消し方も判らない。
なら、実体の封印を解くまでの間、ロザリアは玩具だと思えば良いのだ。愛する者と繋がっている間は、クロスツェルの煩わしい叫びも多少なり大人しくなる。駄々を捏ねる子供に人形を宛行う感覚でいれば良い。
長衣の袖で額の血を拭って、再び階段を上った。
早朝、信徒を迎え入れる準備をする為に礼拝堂へ向かうと、祭壇の前に人影があった。
鍵は既に開けておいたから、誰が入っていてもおかしくはないが……空が白むにもまだ早い、熱心な信徒でも来ない時刻だ。
首を傾げつつ歩み寄ると、短い金髪をさらりと揺らして、夕闇を思わせる紫色の虹彩が振り返った。
僅かに吊り上がった目尻が何処となく冷たい印象を与える、二十代前半の男。真っ黒な上下服で均整が取れた体の線を強調している。胸元には、アリアを示す「月桂樹の葉を銜える水鳥」を模した銀色のペンダント。
やはり信徒か?
しかし男は、クロスツェルの真っ白な長衣を上から下までじっくり観察して、突然クス、と笑った。
「……何か?」
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