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Impossible Dish
第一食
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 裕福な家庭なんだな、と一目見れば解るほど上品な内装で整えられた一室。その中央に備えられた品が感じられるテーブルに着く少女と少年。

 片や、長い金髪を輝かせ、瞑目していながらも絶世の美女であることを窺わせる整った顔立ちを持つ少女。彼女の前には白磁の皿にこじんまりと盛り付けられた料理があり、その脇にナイフとフォークが置かれている。盛り付けの一部が欠けていることから、どうやら一口食したらしい。

 片や、短く切り立った黒髪が特徴的で、こちらも万人に聞けば万人が綺麗だと評する美少年。金髪の少女の真正面に座る彼だが料理は出されておらず、むしろエプロンを着用していることから少女に料理を振舞っているのかもしれない。

 慎ましくも高級感の漂う部屋に、見目麗しい少年少女がテーブルに向かい合っている。この場面を絵にすれば、どこかの国の貴族の日常風景のように見えるだろう。
 ただ、少年の顔色は優れていないせいで、平和的な絵画になることはありえなかった。端整な顔に脂汗を浮かべ、口角は緊張のあまり強張って変な角度に吊り上っている。心なしか切り立った髪が萎れてたりする。少年の目線は咀嚼を終えたばかりの少女の口元に固定されており、さながら死刑宣告を待つ囚人のようであった。

 事実、死刑宣告が下された。

「まずい」

 うっすらと目を明けた少女は、ただその一言を冷淡な声音で言い渡した。少年の料理を食した彼女の顔も氷のように冷たく、どこまでも無表情だった。
 己の傑作を一言で一蹴された少年はがくりと首を落とし、申し訳なさそうに皿を下げた。

「ごめんなさい……。出直してきます……」

 これが、薙切えりなと薙切なおとの始まり(プロローグ)である。



「今日から薙切家の一員になる子だ」

 それが薙切家当主仙左衛門からによる薙切なおとの紹介だった。たったそれだけで紹介を済まされてしまった薙切インターナショナルの重鎮を始め、えりなの母レオノーラすらも呆けた。我を取り戻した彼らは更なる説明を要求したが仙左衛門は頑として詳しく答えず、ただ「養子として引き取った」とだけ返した。何と言おうと当主の決定なので最終的にはなおとを薙切に迎え入れることになった。

 養子ということなので苗字は薙切、しかも名前は仙左衛門が直々に付けたなおと。引き取った当時はまだ首も据わっていない赤ん坊である。最初は一体なぜ前触れもなく養子を取ったのかと疑問に首を傾げたが、仙左衛門ほどの人がわざわざ引き取るほどなのだからきっと世界に名を馳せる料理人の息子なのだろうと勝手に宛てを付け、なおとの成長を期待するとともにどこへ出しても恥の無い超一流の料理人に仕立て上げるべく教育の準備を始めた。

 しかし、そんな彼らの期待は呆気なく裏切られることになる。

 な
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