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【D×D】掃除男、君はとてもいい匂いだ…
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男に特殊な生まれはなかった。ごく平凡な家庭の平凡な長男として育った。

男は天に授かった力を持っていなかった。神器という人だけに許された力も、彼にはなかった。

男は好奇心が旺盛だった。掃除と旅行、そして調べ事と実験をこよなく愛した。

そしてその男、掃詰箒は――


「――ふぅん。所詮フェンリルも生物の域を越えないって訳か。良い実験になったよ」


世界を喰らう三頭の狼が、躯のように倒れ伏していた。
巨狼フェンリルとその子供であるスコルとハティは、その人知を超えた圧倒的な力を振るうことなく痙攣しながら泡を吹き、立ち上がるそぶりもなければ最早声も出ないらしい。見る影もない痛ましい姿となった神話の獣を見下ろす箒の目は、どこまでも純真で、そしてどこまでも残酷だった。

「ば……か、な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!そんな筈はない、そんな訳はない!フェンリルだぞ!?オーディンさえも殺しうる神殺しの牙を………神話の存在でも、まして英雄ですらない貴様のような凡俗が、倒せるわけがない!!」
「そうか?論理的に考えた結果としてこんな風に突破法は見つかったんだし……実現可能性はずっと存在してたことになるなぁ」

目を剥き、怒りとも憎しみとも知れない爆発的な感情をあらわにする「狡知の神」ロキを前に、箒は実に飄々とした態度でそう返した。その紙を前にした傲慢不遜な態度が、更にロキを激情に狂わせる。大気を震わす殺意の壁が世界を拒絶するように周囲を覆う。
最早、並の人間では意識を保つことが不可能なまでの人知を超えた存在を――しかし、箒は「これはそういうものである」と受け入れることで、平常心を揺らさなかった。

「何なんだ貴様は……何なのだッ!!天使を連れ、悪魔と並び、堕天使と論を交え――そして今度は北欧神話を汚すと言うのか!?」
「まぁ北欧神話の神々って他の神話体系に比べると意外に弱いから何とかなる気はしたけどな。言うならば、それがお前の限界って事じゃないのか?なぁ、人間との知恵比べに負けた悪神さん?」
「こ、このロキを……我が知恵と狡猾さを凌駕したつもりか、人間風情が……ッ!!」
「どうした?さっきから随分力んでるみたいだが、お前の仕事は嘘と悪口で場を乱す事だろう?――さあ、口で勝負しようぜ」

にやりと笑って手招きした箒の堂々たる姿に、ロキは知らぬうちに一歩後ずさった。
力がない筈の唯の人間が、神さえも圧倒する。

その姿は、現代の英雄。
神を下すものにして、神を越えるもの。
その瞬間、その光景を見ていた者たちは各々がその男の背中に――光を見た。
ある者はそこに嘗ての主の威光を見出し。
またある者はそこに大いなる希望を見出し。
そしてまたある者は――

「………ないわー。もうなんか、ないわー……」
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