うわ―い、鍋だ〜♪
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がんもどきに大根、いか巻きこんにゃく、そしてふかふかのはんぺん……。
(美味しそうです……)
ほかほかと湯気が上がるおでんの鍋を置くと、菊が合図をした。
「これで揃いましたね。では、いただきます」
「「いただきまーす!」」
全員が一斉に声をそろえると、とたんに2つの鍋にたくさんの箸が行き交う。
菊はすっかり出遅れて、その様子をポカンと眺めていた。
「タコうまっ!」
「この玉子、おでんのだしが染みててすげぇー美味いぞコノヤロー! さすが菊だな」
「でも兄ちゃん、最初はやっぱりちくわぶだよ〜」
(……どうしようかな……何から食べましょう)
全員が前もって揃うとわかっている夕食の日には、こういったみんなで囲める食事を出すように心掛けている。
「・・・大根、熱そうだな」
ルートヴィッヒがそう言いながら、大根を皿にとる。
「ヴェスト、やっぱ大根は冷ましてから食わねぇと」
「そうだよ〜」
「でもやっぱ、美味いよな」
ロヴィーノはルートヴィッヒがはふはふと大根を頬張るのを見て、自分も皿にとって大根を食べていた。
(大根ですか…私もまずはそれからいきましょうか)
菊は手を伸ばすと、茶色くて味の染みていそうな、柔らかい大根に箸をつけようとした。が……。
それよりいち早く、誰かの箸が伸びてきて……。
(あっ)
と思ったときには―。
「大根うまっ!」
ギルベルトがパクッとその大根を食べてしまった。
(あぁ……)
あんなに熱いと話していた大根を一気に口に入れたギルベルトは、「熱い熱い」と目に涙を浮かべている。
「私の大根…」
思わずため息をつくと、すっと目の前に皿らが差し出された。
「え…?」
そこでは、茶色に染みた大根が湯気を上げている。
顔を上げると、皿を差し出していたのはアーサーだった。
「あの、これは…」
「…やるよ」
「えっ、ですが…」
「大丈夫。こっちの鍋にはまだたくさんあるから」
どうやらアーサーは、もう1つの方の鍋から大根を取ってくれていたようだった。
そっと受け取ると、何事もなかったかのようにアーサーは食事を続ける。
「ありがとうございます、アーサーさん」
答える代りにアーサーは、少しだけ微笑んだ。
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