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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十話 苗川攻防戦 其の二
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目は貧相だが厄介だな。アレのせいで余計な時間を食う。」
 カミンスキィが唸ると首席参謀のプレハノフ中佐も首肯して云う。
「砲兵の随行を強要させ足を遅くさせる。
しかし、深く、流れの強いこの地点から砲を渡河させることは不可能ですな、良くもまぁ思いつくものです」

「まったくもって抜け目の無い事だ、小器用な蛮族と侮るのは危険だな。
――それでは砲兵であの柵を破壊するとしよう。」
軽砲といえども馬防柵はたちまち消し飛ばされた、勿論、同じ方法で激流を消し飛ばすわけにもいかない、激流に身を任せても心臓が静の状態になるだけである。
「この部隊で馬上水練の一番上手い者は?」
破砕された柵を尻目に首席参謀と相談する。

「ゴトフリート・ノルティング・フォン・バルクホルン大尉です」
「あぁあのごつい顔の男か。」
 カミンスキィの言葉を聞くと首席参謀は一瞬呆れた様な顔をして呼びに行った。
 確かに彼が言っては大半の人間がそうなってしまうであろう、彼自身もそれを武器にして生きてきた
父の死によって男爵家であったカミンスキィ家の没落後、母によって帝弟を相手に男娼まがいの行為をさせられていた事があり、更に現在は東方辺境領姫の愛人として軍人としての栄誉を勝ち取っている。
 尤も、彼自身はこのまま終わるつもりは無く全てを踏台にして更なる栄達を求めている。

「連隊長殿、フォン・バルクホルン参りました。」
 典雅な発音と古風な名前が旧時代の勇将の如き外見を中和し、ゴトフリート・ノルディング・フォン。バルクホルン大尉はまさしく理想の貴族将校としてカミンスキィの眼前に佇んでいる。
 「大尉、君に栄誉を与えたくてね、渡河の先駆けだ。
馬ならば渡る事が可能な筈だ、練達の騎士と名高き貴殿に任せよう。」
 申し分ない守旧の産まれの〈帝国〉騎士へと沸き起こる妬気を打ち消しながらカミンスキィは涼やかな微笑を貼り付け、命じる。
「了解しました大隊長殿、渡ります」
逡巡せずに鮮やかに答えた練達の〈帝国〉騎士は苦労しつつも急流を渡り、遂には砲撃で崩れた岸や柵を踏み越えた。
 ――成程、大した腕だ。
 カミンスキィは率直に評価し、人名簿に名を刻みつけると続いて馬を進めながら部下達を鼓舞するべく声を上げた。
「渡れぬわけではないな。諸君! 私に続きたまえ!」



「損害は?」
「溺死等で67名です」
 アルターの報告にカミンスキィは顔を強ばらせた。
「十分の一近くが逝ってしまったか……厄介な事だ。おまけに日が暮れたせいで濡れた服も乾かせずに凍傷になる。」
「今日は此処までが限界です、野営の準備の前に薪を――」
首席参謀が今後の行動の提案を行おうとすると、対岸に駆けつけた伝令が新たな状況の変化を告げた。
「伝令!シェヴェーリン閣下より伝
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