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雲は遠くて
8章 美樹の恋 (その4) 
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次から次へと、問題ばかりで、
なかなか、こんなに、きれいに、生きられないつーか」

「そうよね、桜とかも、生きていて、
幸せって、感じることが、あるのかしら」

美樹は、陽斗(はると)を見ると、明るくほほえんだ。
陽斗も笑顔になった。

(はる)くんは、きっと、だんだん、有名になって、
すてきなピアニストになっていくんだろうなあ・・・。

美樹は、男っぽい凛々(りり)しさと、
純粋で、こわれてしまいそうな、ナイーブさのまじった、
陽斗の笑顔を見つめながら、そう思った。

陽斗は、世の中のこと、人生のこと、
哲学的なことなどを、ひとの何倍も考える、
ちょっと風変わりな、タイプの男子であった。

自分のことよりも、友だちのこと、世の中のこと、
そんなことで、考えこんだり、悩んだりするので、
高校時代をいっしょに過ごした美樹は、
よく、陽斗には、ひやひや、心配もさせられた。

けれど、そんな、陽斗のやさしさが、
女心をくすぐる、美樹の好きなところだった。

最近の陽斗は、そんな自分の、やさしすぎる(くせ)を、
客観的に見つめられるようになっていて、
そんな自分自身を、笑いとばしてしまったりと、
ユーモアのあるオトナとして、少しずつ、成長していた。

陽斗(はると)の父親は、知名度のある、ジャズ評論家であり、
ジャズ喫茶のオーナーであったり、
母親は、私立(わたくしりつ)の音楽大学の、
ピアノの准教授(じゅんきょうじゅ)

そんな家庭環境も多分(たぶん)にあるが、
陽斗は、20(はたち)という若さで、
すでに、新鋭の才能のあるピアニストという評価を
世間から()つつあった。

ふたりが、高校のころから、立ち寄ってきた、
神社の境内(けいだい)には、
白や黄色の山吹(やまぶき)や、
大紫(おおむらさき)ツツジとかも咲いて、美しかった。

≪つづく≫ 
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