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セントジョージと飯館村に降り注いだ死の灰

カテゴリ: 放射線の真実
作成日:2015年09月04日(金)20:13
投稿者: Hiroyuki
1948年のベルリンの封鎖はアメリカとソ連の冷戦のきっかけのひとつである。1950年代はアメリカが冷戦に突入し仮想敵国ソ連に対抗するべく核兵器の増強のために、総力を投入した。

ネバダ核実験場
熱核兵器(水爆)実験は太平洋(ビキニ諸島)の核実験場で行う一方で、小型の戦術核兵器(原爆)をネバダ州の広大な核実験場は1951年から1992年にかけて928回の核実験が行われた(注1)。上の写真は核爆発のあとにできたクレーター。「死の灰」は核実験場上空から風に乗り全米各地に運ばれた。(下の図)

(注1)ネバダ核実験回数は1,200回という資料もある。
セントジョージに降り注ぐ死の灰

ラスベガスから遠くない核実験場の入り口に近いマーキュリーで1953年5月19日に32キロトンの原爆実験を地上で行った。当時の核兵器実験の人体への影響と防護は次の項目の順番で対策が講じられた。

1) 爆発閃光を直視しないこと

2) 衝撃波による怪我の防御(腰を折り建物に隠れる)

3) 放射線防御。放射性フォールアウト(死の灰)をかぶらない



放射線の影響については実験チームに医者、生物学者が参加していたが、重大事項とされなかった。当時の記録フイルムをみると「放射線は宇宙線と自然放射能によるバックグラウンドの中で生活するヒトにはこれをはるかに越えない放射線に対しては耐性がある」としている。

これは原子力発電所に安全なイメージを与えるためにホルミシスや、「少量の放射線照射は健康を増進させる」という根拠のない宣伝が行われたたことと似ている。住民がパニックを起こさないように軍がそう説明しただけのことだが、兵士も原爆投下後に防護服なしに爆心地に向けて移動する様子も記録されている。



ホットスポット

実験当時の気象情報は快晴で「死の灰」は州を超えたセントジョージ(実験場から約200km)の東南に運ばれる予測であった。しかし実験後に風向きが変わりセントジョージの上空を通過した。住民は窓を閉じきり家に上空を「死の灰」が通過する1時間の間、退避すれば人体への影響はないとされたため、パニックは起きず平穏な退避であった。

「死の灰」は街に落下し1950年半ばから1980年代まで白血病、リンパ腫、甲状腺癌、乳ガン、黒色腫、骨肉腫、脳腫瘍、消化管癌などの発生率増加が報告された。ネバダ核実験場で行われた最初の爆発では遠く離れた東部でのGM計数管の測定ではバックグラウンドの25倍であったという。地球平均の自然放射線のレベルは2.mSv/年なので60mSv/年。自然放射能レベルが高い場所もあるので、健康に被害がない、としたが実は「ホットスポット」が存在した。



原子力規制員会(AEC)は核実験による「死の灰」で健康被害はない、と主張を繰り返した。1953年に厚生省にあたる政府機関(Public Health Service)はセントジョージから取り寄せた牛乳のサンプルが同地域の農家のものでなかったことで、死の灰の影響は検出されなかった。

AECが方針を変えたきっかけとなったのは英国の各施設ウインズケールの放射能汚染事故(別記事参照)で、アイゼンハワー大統領の指示でつくられた新基準をセントジョージの牛乳は超えていることがわかった。

1961-71年の期間で甲状腺癌の派生率は10万人中3.9例でその前に比べて60%の増加ではあるが、甲状腺癌とヨウ素131の因果関係は大気圏核実験によるバックグラウンドの増大もあって簡単に結論は出せなかった。
福島第一の放射能汚染

福島第一の経緯を振り返る。飯館村は原発から20km圏内にあり全域が風下にあたり20mSv/年の高い放射能レベルに汚染されたため、「計画避難地域」となった。2012年に一部が20mSv/年以下になったため避難指示が解除されたが、現在でも50mSv/年を超える地域は帰還困難区域になったままである。

セントジョージは200km、飯館村は20kmの距離にあったが舞い上がった死の灰が風に乗って運ばれれば直線距離があっても、ホットスポットが生じる(下の図参照)。避難前の被爆によって甲状腺癌が増加したかどうかは議論が分かれる。

隠された情報公開

1950年代に死の灰の運ばれる際に、はるか風下にホットスポットができる、ことはわかっていて、シミュレーションでもはっきりしたのに、情報が公開されず避難が逆に裏目に出たことである。またシミュレーションコードの開発に国の予算が投入され、このときに活躍していれば予算に関わった人たちの責任も果たせた。セントジョージについてもまた情報の公開が完全だったとはいいがたい。しかしセントジョージの場合は軍が関与していたことと、冷戦下の社会的状況を考えれば自国に不利な情報を隠すことがあっても不思議ではない。しかし福島第一ではそういう言い訳は通用しない。





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セントジョージと飯館村に降り注いだ死の灰

カテゴリ: 放射線の真実
作成日:2015年09月04日(金)20:13
投稿者: Hiroyuki
1948年のベルリンの封鎖はアメリカとソ連の冷戦のきっかけのひとつである。1950年代はアメリカが冷戦に突入し仮想敵国ソ連に対抗するべく核兵器の増強のために、総力を投入した。

ネバダ核実験場

blog-testsite

Photo: Karen's blog



熱核兵器(水爆)実験は太平洋(ビキニ諸島)の核実験場で行う一方で、小型の戦術核兵器(原爆)をネバダ州の広大な核実験場は1951年から1992年にかけて928回の核実験が行われた(注1)。上の写真は核爆発のあとにできたクレーター。「死の灰」は核実験場上空から風に乗り全米各地に運ばれた。(下の図)

(注1)ネバダ核実験回数は1,200回という資料もある。



Fig-12-Fallout-US

Photo: Veterans Today



セントジョージに降り注ぐ死の灰

ラスベガスから遠くない核実験場の入り口に近いマーキュリーで1953年5月19日に32キロトンの原爆実験を地上で行った。当時の核兵器実験の人体への影響と防護は次の項目の順番で対策が講じられた。

1) 爆発閃光を直視しないこと

2) 衝撃波による怪我の防御(腰を折り建物に隠れる)

3) 放射線防御。放射性フォールアウト(死の灰)をかぶらない



放射線の影響については実験チームに医者、生物学者が参加していたが、重大事項とされなかった。当時の記録フイルムをみると「放射線は宇宙線と自然放射能によるバックグラウンドの中で生活するヒトにはこれをはるかに越えない放射線に対しては耐性がある」としている。

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「死の灰」は街に落下し1950年半ばから1980年代まで白血病、リンパ腫、甲状腺癌、乳ガン、黒色腫、骨肉腫、脳腫瘍、消化管癌などの発生率増加が報告された。ネバダ核実験場で行われた最初の爆発では遠く離れた東部でのGM計数管の測定ではバックグラウンドの25倍であったという。地球平均の自然放射線のレベルは2.mSv/年なので60mSv/年。自然放射能レベルが高い場所もあるので、健康に被害がない、としたが実は「ホットスポット」が存在した。



原子力規制員会(AEC)は核実験による「死の灰」で健康被害はない、と主張を繰り返した。1953年に厚生省にあたる政府機関(Public Health Service)はセントジョージから取り寄せた牛乳のサンプルが同地域の農家のものでなかったことで、死の灰の影響は検出されなかった。

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1961-71年の期間で甲状腺癌の派生率は10万人中3.9例でその前に比べて60%の増加ではあるが、甲状腺癌とヨウ素131の因果関係は大気圏核実験によるバックグラウンドの増大もあって簡単に結論は出せなかった。



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福島第一の放射能汚染

福島第一の経緯を振り返る。飯館村は原発から20km圏内にあり全域が風下にあたり20mSv/年の高い放射能レベルに汚染されたため、「計画避難地域」となった。2012年に一部が20mSv/年以下になったため避難指示が解除されたが、現在でも50mSv/年を超える地域は帰還困難区域になったままである。

セントジョージは200km、飯館村は20kmの距離にあったが舞い上がった死の灰が風に乗って運ばれれば直線距離があっても、ホットスポットが生じる(下の図参照)。避難前の被爆によって甲状腺癌が増加したかどうかは議論が分かれる。

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Source: It's yourv health



隠された情報公開

1950年代に死の灰の運ばれる際に、はるか風下にホットスポットができる、ことはわかっていて、シミュレーションでもはっきりしたのに、情報が公開されず避難が逆に裏目に出たことである。またシミュレーションコードの開発に国の予算が投入され、このときに活躍していれば予算に関わった人たちの責任も果たせた。セントジョージについてもまた情報の公開が完全だったとはいいがたい。しかしセントジョージの場合は軍が関与していたことと、冷戦下の社会的状況を考えれば自国に不利な情報を隠すことがあっても不思議ではない。しかし福島第一ではそういう言い訳は通用しない。





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