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勝負

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第二章


第二章

「いらっしゃいませ」
「はいよ」
 美麗はそのマスターの礼儀正しい挨拶を受けながら店に入った。当然ながら由佳も一緒である。二人で窓際の席に座った。
「この店味もサービスもいいんだけれどな」
「いいことじゃない」
「店の内装とあの親父の外見はどうにかならないのかな」
「気にしなくてもいいことね」
 由佳はそれについては何でもないと言い切ってしまった。
「これだけ美味しいコーヒーとケーキを出してくれるんだから」
「まあそうだけれどな」
 この店が人気があるのはそうした理由からだ。内装やマスターはまずはよしとされるだけのものがあるのである。
「それで話って何だ?」
「若松君のこと」
「それか」
 美麗はその言葉を聞いてすぐに顔を顰めさせた。
「何であいつの話ばかりするんだよ、皆が皆」
「わかってるからよ」
 由佳は素っ気無く美麗に言ってきた。姿勢も座ったまま変えはしないで。
「若松君のこと好きよね」
「さあな」
 それに対してはとぼけてきた。奇しくも冬樹と全く同じであった。
「何のことだか」
「告白とかはしないので」
「だから知らないって」
 美麗はあくまでとぼける。
「あいつのことなんてな」
「告白したら確実に成功するわよ」
 そのとぼける美麗にまだ言う由佳であった。
「向こうも同じ気持ちだから」
「知らないって言ってるだろ」
「そう」
「そうだよ。何であたしが若松と」
「幼馴染みよね」
 由佳は今度はこう言ってきた。
「確か」
「まあな」
 美麗は今度は素直に頷いた。それまで泳がせていた目を元に戻して。
「それはな。否定しないさ」
「お互いよく知ってるわよね」
「一応はな」
 これも否定しなかった。
「赤ん坊の頃から顔を見合わせていたしな。道場でも」
 彼女も少林寺をしている。しかし学校では料理部で少林寺はしていない。家が道場だからそこでしているのである。
「その間系でな。ずっと一緒だったさ」
「道場ね」
「!?」
 今の由佳の言葉にはクェスチョンマークになった。
「どういうことだ、そりゃ」
「何でもないわ」
 しかし由佳はそれ以上は言わない。言おうとしない。
「気にしないで」
「そりゃ無理だろ。今まで聞いて」
「コーヒーが来たわ」
 しかし由佳の方が一枚上手だった。ここでコーヒーが来たのをいいことに話を強引に打ち切ってみせたのだった。
「飲みましょう」
「あ、ああ」
 これで勢いをくじかれてしまった。美麗もそれで大人しくコーヒーを飲むのであった。
 美味いコーヒーであった。頭が冴え渡る位の。由佳はそれを飲みながら策を考えていた。そうしてそれを発動させる決意を固めるのであった。
 今度は冬樹の番であった。充がまた彼に声をかけていた。
「果たし状なんだよ」
「果たし状!?」
 冬樹は果たし状という言葉を聞いて顔を一瞬のうちに険しくさせるのであった。
「それは本当なのか」
「幾ら俺でも嘘で果たし状を届けたりするか」
 彼はこう言って冬樹を安心させるのであった。そうして懐からその手紙を出して来る。見れば白い紙に包まれておりその表に丁寧に毛筆で果たし状と書かれていた。
「ほらな、本当だろ」
「そうだな」
 見ればその通りであった。確かに果たし状に間違いなかった。
「それで誰からなんだ」
「さてな」
 この質問にはとぼけるのであった。
「見たことのねえ奴だったな」
 できるだけ目を泳がさせないようにして冬樹に告げる。この目を泳がさせないようにするというのが充の今回最も苦労した点であった。
「悪いけれどな」
「そうだったのか。では他の学校か」
「場所は遊園地の入り口らしいぜ」
「遊園地!?」
「そうさ、そこの入り口だってさ」
 そう冬樹に語る。
「そこで次の日曜の朝に待ってるって話だぜ」
「そうか、遊園地なのか」
 冬樹はそれを聞いて大きく頷いた。
「そこで決闘か」
「そういうこtだ。それでいいよな」
「僕としては場所には異存はない」
 その暑苦しいまでの気迫を見せて充に告げる。
「何処でも。そして何時でも誰でも」
「相手にとっては不足はないんだな」
「僕は誰の挑戦でも受ける」
 一世を風靡した華麗かつダーティーな闘いを魅せた魔性のレスラーのような言葉を口にする。本来ならば彼以外の何者をも言うことが許されない言葉であったがこの時だけは違っていた。
 
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