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無欠の刃

作者:赤面
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アカデミー編
  陰陽

 陰陽。
 一般的には、相反しあいつつも、それがなければ存在できない事象のことを指し示す。
 受動的な性質を持つ、闇・暗・柔・水・冬・夜・植物・女に対し、能動的な性質を持つ光・明・剛・火・夏・昼・動物・男などにわけられる。
 光と闇。明と暗。剛と柔。水と火。冬と夏。動物と植物。男と女。
 しかし、この論は善と悪などと言ったものとは違い、二つで分けて考えるのではなく、二つ合わせて一つという考え方をするのである。
 この陰陽は五行思想と一緒に考えられる論法であり、忍びの忍術の根幹ともいえるものだろう。

 ナルトとカトナはまさに、この陰陽を表した存在ではないのだろうか。
 イルカはそんなことを思いながら、目の前でうなりながら必死に問題を解こうとするナルトに目をやる。

「イルカ先生ってばー、わけわかんねーってばよ、この問題ぃぃぃ!!」
「だから、この公式はこう説くんだと何回言えば…」

 呆れながらもそう言うイルカに、ナルトは感情をむき出しにした姿で答える。
 対して、黙々と勉強に励むカトナは、相変わらずの無表情で、問題集に答えを書いていく。
 あまりに成績が悪いナルトを見かねて開かれた、特別授業と補習。体術クラスとはいえ、やはり基本中の基本である勉学が出来なければ、卒業は出来ないわけで。
 かくして、勉学が出来るカトナと、担当教師であるイルカによる補習が開かれているのだが、ナルトの頭の出来はやはり、そんなにはよくない。
 カトナの必死な教えもむなしく、イルカのそれなりに役に立つ憶えさせ方もむなしく、ナルトは全く学習しない。

 カトナはと全く違うなと、イルカはカトナが解く問題集を見る。
 難しい問題だ。
 イルカが知る限り、これを解ける人間は学内の成績がトップのものしかいないだろう。
 カトナは記憶力がいいうえに努力家なので、学外でもトップの成績を誇る。いつもサスケとワンツーフィニッシュを決めるほどだ。

 ただ、そんな彼女も、先ほどからある問題を見て考え込んでいるだけで、解こうとはしない。
 解き方がわからないのだろうと思い、イルカは公式を書いた紙をカトナに見せる。
 カトナはその紙を暫く凝視した後、ぺこりと頭を下げ、問題を解くことを再開する。

 ナルトは自分では理解できないと思った瞬間、すぐさま分からないと発言して、他人に教えてもらおうとするのに対して、カトナは、分からない問題は自分の手で解こうとする。
 イルカが頼りにならない、わけではないのだろう。
 どちらかというと、ナルトを教えているときに教えを乞うて、迷惑をかけたくなかったのかもしれない。
 頼ってくれた方が、教師としてはやりがいがあるんだけどなぁと思いながらも、ナルトが解けた解けた!!といってはしゃいでいるのにこたえて、頭を撫でる。

 ナルトはまるで陽だ。光のように明るく、受動態ではなく能動態。受け身ではなく行動的。火のように激しく、夏のように熱い。
 対するカトナは陰だ。影のように暗く、能動態ではなく受動態。行動的ではなく常に受け身。水のように穏やかで、冬のように冷ややか。

 二人は全く違う。それなのに、二人で一つを作っているのだから、面白いものだ。
 その一人であるカトナは片割れを見て嬉しそうに笑っていたが、ふと時計を見て、慌てて立ち上がる。

 「すいません、先に、帰り、ます」

 いきなりそう言いだしたカトナに、何か用事があったのだろうかとイルカは当惑する。
 同じように時計を見つめた彼のその疑問に答えるように、ナルトがあ、と声をあげた

「そっか。今日はバーゲンセールだってば!」
「バーゲンセール?」

 驚いて目を瞠るイルカに、ナルトは不思議そうに首をかしげた。

「先生ってば、知らねぇの?」
「いや、知っているが」

 てっきり二人の食料は三代目火影から支給されていると思っていた。
 それをそのまま口に出せば、カトナは少しだけ困ったように言い返す。

「流石に、そこまで、頼るのは、駄目、です」
「俺達、じいちゃんにお金貰ってるのに、これ以上貰うのは、NG! なんだってば」

 それに、三代目火影が毒見した食料以外は信用できない。あらかじめ、毒が仕込まれていたりすることが多い。最近は毒をいれた痕跡が見つけやすいからと、レトルトのものが多くなってしまっているが、致し方ないだろう。
 ……サスケからのおそすわけで食料を貰い、ちゃんと作ることもある。うちはの唯一の生き残り、写輪眼をもつサスケを殺すわけにはいかないからか。サスケが持ってくるご飯は、確実に毒がなくて安心して食べられる。
 サスケも料理は出来るが、カトナの方が美味しい料理を作れる。お互いの利害が一致しているので、よくお世話になっているのだが、しかし、毎日お世話になるのは心苦しい。
 ので、今のところ二人のメジャーなご飯は、レトルト食品と、ナルトのお気に入りのカップラーメンだけだった。
 のだが。

「じゃあ、俺が奢ってやろうか?」
「へ」
「え」

 イルカは何気なしにそう言うと、自分の懐の財布の中をあらためた。
 中に入っているお金は少なくはない、そして多くもない。しかし、これなら三人分は大丈夫そうだと確信して、イルカは二人に尋ねる。

 「どこがいいか? あっ、高級寿司屋とかはやめろよな」

 どこがいいのだろう。
 気分的にはお気に入りのラーメン屋さんに行きたいところだが、二人が安心できる場所じゃないと駄目だろう。なんなら、作ってもいいかもしれない。そういえば、今、家の野菜の賞味期限が近づいていた。
 処分してもらうことを理由にあげようかと思考をはせたイルカに、戸惑った様子のナルトが質問する。

「なんで、おごってくれるんだってば?」
「そうだなー、可愛い生徒にはおごりたいもんじゃないか?」

 それは理由じゃない。そう言いかけたカトナを制するように、ナルトが声をだす。

「やったー!! 俺、ラーメン、一楽のラーメンがいいってば!!」
「ちょっ、ナルト」
「おっ、ナルトもあそこのラーメンが好きなのか。俺もな、あそこのラーメンが大好きでな」
「海野先生も、かんがえ」
「よし、いくってばよ!!」

 カトナの静止も聞かずに片付けをし、帰りだし始めた二人に、カトナはどうしようと下をむく。
 二人の楽しげな声が聞こえるのに、自分がいったら、それを壊してしまいそうで。海野先生にも迷惑をかけそうで。そのラーメン屋さんが、毒を仕込みそうで怖くて。
 先にかえるねと、そう告げようとしたカトナの手を、ナルトが掴んで笑う。

「早くいくってばよ、カトナ!」
「ほら、二人とも。はやくしないと、店が閉まるぞー」

 その笑顔を壊したくなくて、小さくカトナは頷いた。


・・・


 一楽でのラーメンは、毒なんて仕込まれていなかった。
 おいしい、おいしいと、ナルトが喜んで食べて、おかわりも要求していた。
 良い食いっぷりだと、チャーシューをおまけしてもらったようだが、カトナはそんなに脂っこいものが好きではないので、子供用の塩ラーメンをもらった。
 ナルトのお椀の二分の一。幼児が食べるような、そんな少量サイズ。
 注文したカトナを見たイルカが心配になって、更に自分の分まで食べさせようとしていたが(そしてそれを見ていたナルトが、代わりに俺が食べるってばよと言って、イルカのを食べようとしていた。そしてイルカに見つかって叱られていた)、カトナは元来少食だ。
 というか食欲が薄いのである。睡眠欲も薄い方だ。欲求に制限がかかっているので、基本は一日二食。酷い時には朝食しか食べないほどだ。
 今日だって、いつもと比べればよく食べた方である。

 しかしながら、どうして毒を仕込まれなかったのだろうと、カトナは首をかしげた。
 イルカがいたからだろうか。ナルトがいたからだろうか。
 聞けばよかったとも思ったけれど、聞くのは失礼だから、聞かなかった。
 美味しいものを作りたいという思いを侮辱することは失礼だ。彼らにも彼らなりのプライドがあるだろう。…憎しみとプライド、どっちが上まわるかは本人次第だろうけど。

 あの人は、カトナが九尾の人柱力と言われていることを、知っていたのだろうか。知っていたのに、知らないふりをしていたのかもしれない。それとも、本当に知らないのかもしれない。
 どっちでもいいやと、カトナはイルカに手渡された野菜を見る。
 品質はいい。賞味期限が近いと言っていたが、そこまで近くはないはずだ。腐りかけでもない。

 何故この人は、こんなにも優しいのだろうか。
 カトナは知っている。
 ナルトの中に眠る九尾が、この人の両親を殺したことを。
 カトナは知っている。
 この人だって、最初はカトナのことを嫌っていたという事を。
 なのになぜ、優しくするのだろうか。教師だからか。先生だからか。
 聞いてみようかと、カトナはイルカの背中を見つめる。
 九尾に背中を晒すなんて、不用心だと言われてるのに、直そうともしない。
 囁き声も聞こえているはずだ。なのに、見向きもしない。
 なんでですか。そう問えば、この人は答えるのだろうか。
 さっきみたいに、勉強だって見てくれたように、答えを教えてくれるか。
 …本当は分かっている。ここまで自問自答する理由は必要ないのだ。
 ナルトがこの人を好いてる、その理由だけでいいのだ。なのに、好きになれない。


 …自分だって、この人を好きになりたい。


 それでもだめだ、それでも信頼できない、好きになりきれない。
 この人が本当のことを言っているかわからなくて、それでも優しくしていてくれるのに信頼できない自分が嫌になって、カトナは死にたくなった。
  
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