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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第二節 木馬 第四話 (通算第29話)

「大尉、《アーガマ》に行ってみるかね?」
 ブレックスが、シャアを振り返りながら通路を戻る。リフトグリップを使わずとも慣性が重力ブロックに引き寄せられる形で進路を定めてくれていた。
「まだ、擬装工事中では?」
「艦体は基本的になんの問題もないのだ。今やっている艤装は居住区の重力ブロックでね。巡洋艦だけに長期航行を視野に入れた設計になっているんだそうだ」
 この辺りが、ジオンと連邦の違いだろうか。
 ジオンでは長期航行を視野に入れた設計を行っていたのはグワジン級大型戦艦ぐらいであり、チベ級重巡洋艦もムサイ級軽巡洋艦も基本的には短期航行を目的とした軍艦だった。ブースターを装着することで長期航行も可能にはなっていたが、居住性は左程快適ではない。
「居住区を切り離すことができるということですか?」
「いや、艦体を中心に遠心力を利用して擬似重力を発生させるのだそうだ。コロニーと同じやり方だが、軍艦に必要だとは思えんがね」
 ブレックスは苦笑いしながら、エレベータに乗り込む。
 中央ブロックから、《アーガマ》へは直通路が開いている。艦体後尾が《ラルカンシエル》にドッキングしており、ノーマルスーツなしで行くことが可能だった。
「中尉!」
 ブレックスがレコアを呼んだ。レコアになにか伝えると、レコアはシャアに一礼して、途中で降りた。
「いい女性士官ですね」
「レコア・ロンド中尉な。大尉とは上手く組めそうかね?」
「相性は良い様です」
 フフッとブレックスが面白そうに笑う。レコアの過去をブレックスは知らない。しかし、レコアの好意がシャアに向いていることぐらいは、みれば判ると言うものだ。
「できれば大尉にアーガマでモビルスーツの指揮を執ってもらいたいものだが……」
「私はジオン共和国軍人です。サイド自治政府軍ならばともかく、連邦軍の将兵が私の指揮では動きますまい」
 それが現実というものだ。サイド自治政府軍には元ジオン軍人も多い。レコアの様に過去を隠したまま軍人になっているケースもある。だが、連邦軍は戦後もアースノイド偏重政策を続けたため、ジオン共和国軍人を敵視するものも多い。さすがにグラナダでは多数派ではなかったが、全くいない訳ではなかった。
「大尉の指揮に反対するものはエゥーゴにいはおらんさ。……だが、《アーガマ》に来てもらう訳にはいかんのだろうな」
 シャアは中隊長としてジオン共和国軍のモビルスーツ隊を指揮する立場にある。エゥーゴにも大尉、少佐クラスの士官がいない訳ではない。ブレックスの思い通りにできないことは明白だった。
 エアブロックに包まれた艦尾が見えた。リフトグリップを乗り継ぎ、接舷エアロックを通る。艦内は外見とは違い狭い。軍用艦ならではの狭さだ。民生用シャトルの方がまだ広い。小型になったとはいえ、軍艦は熱核融合炉をモビルスーツの数倍も搭載しているのだから当然である。
「木馬と同じだ……」
 シャアが思わず呟く。事実《アーガマ》と《ホワイトベース》は基本設計が同じであった。異なるのは中央カタパルトをモビルスーツデッキとし、両舷にカタパルトが装備されている点である。エンジンブロックや艦橋などの独立工法によって工期が短縮されており、居住ブロックがむき出しであることも特徴だった。
「サラブレッド級攻撃機動母艦《アーガマ》と制式登録はされているが、アイリッシュ級宇宙戦艦の零番艦と言う方が正しいな」
「アイリッシュ級……ですか?」
 シャアには聞いたことの無いクラスだった。連邦の新型艦ということなのだろうか。共和国経由の情報にもなかった名称である。
「あぁ、大尉にはまだ話していなかったな。アイリッシュ級というのは、現在建造中の戦艦だよ。それも、巡洋艦として申請をしている……ね」
 この《アーガマ》とて木星船団の大型長距離航行船の建造費を流用しているのだ。その上、巡洋艦と偽って戦艦を発注しているとなると……
「バレれば、私は軍法会議ものだな?」
「准将……」
 シャアはブレックスの態度に余裕を感じていた。ブレックスの見立てでは、サイド自治政府の管理下にあるサイド駐留軍の協力体制がかなり整っているということだろう。問題は……
「あとは議会ですか」
「いや、サイド自治政府もなかなか首は立てに振らんさ。だがね、クワトロ大尉、誰かがやらなければならないのだ。地球の暴力に宇宙市民が屈せねばならないという法はない」
 父ジオンもそうであったように――シャアは心の中でそう付け加えた。
 今はただ、クワトロ・バジーナとして、この争いに巻き込まれていくべきだと考えた。現時点で、エゥーゴが固有の武力として保有しているのは建造中の一個戦隊とシャアが動かすことができるジオン共和国の一個戦隊、ブレックスの指揮下にある機動歩兵一個大隊が全てである。ジオン共和国の一個戦隊が参列すれば、サイド自治政府の支援を受けられる様になるであろうことは予測できた。
「これ以上、ティターンズの連中に好き勝手させる訳にはいきません」
「頼もしいな。エゥーゴとして初めての作戦で、大尉の活躍を期待させてもらおう」
「はっ。微力を尽くします!」
 ブレックスはシャアを伴って《アーガマ》の艦橋へと上がった。 
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